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コロナ禍で難病の子どもと家族に危機が迫る
もし、人工呼吸器を付けて寝たきりの難病の息子が新型コロナウイルスに感染したなら……。そんな想像をしただけで背筋が寒くなる。
全身の筋力が衰える難病「先天性ミオパチー」を患う大森 駿之介 君(13)を、自宅で育てる母親のさとみさん(44)。「新型コロナの恐怖」におびえながら生活している。

先天性ミオパチーを患う大森駿之介君を自宅で育てるさとみさん(東京都内で)
難病の子を育てる家族、気が抜けない毎日
「私は母親であるだけでなく、ある意味、医師、看護師、ヘルパーさんなど様々な役目を担いながら、24時間、息子に寄り添っています。自分自身の判断が子どもの命を左右することもあり、気が抜けない毎日です。自分自身が潰れないように、必死に頑張っています」
さとみさんは、コロナ禍の生活について、そう語る。
駿之介君は、言葉を発することができず、自分で呼吸や食事ができない。人工呼吸器を装着し、おなかに開けた穴から管を通して胃に栄養を送る「胃ろう」を付けている。たんが詰まっても自分で吐き出すことができないので、呼吸が止まらないように、さとみさんが1日5~8回、「吸引カテーテル」を気管切開した部分から入れて吸い出す必要がある。めったにないが、体調が悪い時は、1時間に1~3回も吸引しないといけない。一時も気が休まらない。
駿之介君は、表情がちょっとわかりにくいが、興味があること、楽しいことには、目を細めて笑顔で伝えてくれる。最近の関心事は食事だ。普段は栄養剤を注入しているが、毎日1食は、さとみさんが食べている食事と同じ物をミキサーにかけて、胃ろうから送っている。母子一緒の食事がうれしいようで、駿之介君は笑顔を見せる。「ミキサー食を食べたい時は、酸素飽和度を測定する機器のアラーム音を鳴らして催促するんですよ」とさとみさん。

駿之介君のことをよく知っている在宅医は、家族にとって頼もしい存在だ
往診や訪問看護などに支えられた在宅生活
自宅で病気の子どもを育てる、さとみさんにとって、命綱的な存在が「在宅医」だ。難病の専門医と連携し、在宅医が日常的に体調の管理をしてくれる。定期的に往診し、心拍や呼吸、血圧などのチェック、胃ろうの交換などを行う。急変した場合でも駆けつけてくれる。さとみさんとしっかりコミュニケーションをとり、親の心身のサポートもしてくれる。そのほか、入浴の介助などを行ってくれる訪問看護師やヘルパーも欠かせない存在だ。
緊張しっぱなしの親に息抜きをしてもらうため、子どもを短期間受け入れる「レスパイト(休息)ケア施設」も重要な役割を担う。特別支援学校の級友や先生からも、生きるための刺激をもらっている。

駿之介君が1日のほとんどを過ごす部屋。たくさんの日差しが差し込む「特等席」にベッドがある
感染リスクもあったが、往診を依頼
このように多くの人たちに支えられて成り立っている在宅生活。それを新型コロナが脅かしている。
駿之介君への感染リスク、または、医療スタッフに感染させてしまうリスクを考えて、往診や訪問看護などを中止する選択もあった。しかし、体調の急変もありえるので、お願いした。また、駿之介君は筋力がないので1人で抱っこするのは大変。骨折の危険性もある。入浴は訪問看護師らの協力がないとできない。
幸い、いつもお願いしている「レスパイトケア施設」は受け入れ可能だったので、駿之介君を預かってもらったことがある。
さとみさんは「確かに施設に預けることによる感染リスクがあります。在宅医に相談したら、母親が疲れ切ってしまうと、適切な判断ができず、ケアもおろそかになり、駿之介君が肺炎を起こしたり、床ずれが悪化したりする危険性があるので心配。レスパイトケア施設を使った方が良いと助言されました」と話す。
学校は休校、内視鏡検査は受けられず
一方、特別支援学校は休校となった。
脈拍が速くなり、気管のチューブが動脈を圧迫しているのではないかと心配になり、気管内に内視鏡を挿入して調べる検査をお願いしたことがある。しかし、駿之介君が通う専門病院では、新型コロナの影響で検査を中止しており、検査はしてもらえなかった。
病院での歯科治療も予定されていたが、スタッフの感染リスクがあるとして延期となった。
さとみさんは食料品や生活必需品の買い物以外は、感染しないように、家に閉じこもる生活を続けてきた。
新型コロナの感染拡大は、いったん収まったと思っていたが、再び勢いを増している。
2018年夏に飛行機に乗って沖縄に行った旅行が忘れられない。「お店の人が、駿之介の顔を両手で挟み、なでながら、『大変だったろうけど、また来てね~』と言ってくれました。新型コロナが落ち着いたら、また、沖縄に行くことを楽しみにして、今は我慢の生活をしています」。
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