ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
神経難病と闘う(2)愛犬を乗せた車椅子を押して廊下往復 ホーム入居後、症状が劇的改善
全く違う生活環境に来たナナちゃんのリハビリにも
実は、この渡辺さんのリハビリは、ナナちゃんにとってもリハビリになっていました。実はナナちゃんは、ホームに入居するまで、渡辺さんの家からほとんど出たことがなかったのです。外に出るのは、年に1度の狂犬病予防接種と、ワクチン接種の時だけでした。従ってナナちゃんは、家の外も知らなければ、渡辺さんと娘さん以外の人に会ったこともなく、他のワンちゃんに接したこともありませんでした。
それがいきなり、大勢の人とワンコが暮らすさくらの里山科に来てしまったのです。当初はナナちゃんはおびえて、渡辺さんのお部屋どころか、ベッドに潜り込んで出てきませんでした。そんなナナちゃんにとって、お部屋どころか、ユニットの外に出されて、見知らぬ人が行きかう廊下に連れてこられてしまったのは、ショックだったと思います。しかしナナちゃんは頑張りました。車椅子にちょこんと座り、ひたすら渡辺さんの顔を見つめて、懸命に我慢していました。ナナちゃんは渡辺さんの顔を見つめて頑張り、渡辺さんはナナちゃんの顔を見つめて頑張っていたんです。
そして、渡辺さんが廊下を3往復もできるようになった頃、ナナちゃんは車椅子の上でくつろいでいられるようになりました。ナナちゃんにとって社会復帰のためのリハビリになったのです。
誕生日のイベントで外食も 日常生活を取り戻す
ホームに入居した渡辺さんの状態を劇的に改善させた物がもう一つあります。日常生活を取り戻したことです。ホームに入居した2週間後、お誕生日を迎えた渡辺さんのバースデーイベントは、渡辺さんのご希望により、ナナちゃんと一緒に外食にお連れしました。もちろん介護職員が付き添ってのことです。
ちなみにうちのホームでは、ご入居者様のお誕生日には、その方だけの個人イベントを開催します。多くの方が外食やお買い物、あるいは市内の海岸などの小旅行をご希望されます。
渡辺さんがご希望されたのも外食でした。普通のご入居者様と違うのは、ナナちゃんと一緒に行きたい、ということです。早速、ユニットの介護職員は、海の上のテラスで、ペットと一緒に食事ができるレストランを予約しました。県外出身の渡辺さんは、そこで初めて三浦半島(※横須賀市は三浦半島の中にあります)の海の幸を堪能したのです。その足元では、初めて海を見るナナちゃんが目を丸くしていました。
こうして、渡辺さんとナナちゃんの、以前とは比べ物にならない充実した生活が始まりました。それは渡辺さんが亡くなるまで3年間続いたのです。(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)
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