ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
神経難病と闘う(1)70代女性「犬を飼ったら共倒れ」 わかっていたが我慢できず…
手足が不自由になっても愛犬と別れる施設入居は拒否
しかし、3年を超えたあたりから、渡辺さんの手足はさらに思うように動かなくなり、最低限の日常生活にも支障をきたすようになってきました。いくら毎週娘さんが来てくれてフォローしても、限界があります。渡辺さんは、かろうじて生活を続けているような状態になりました。それでもナナちゃんは、しっかりご飯をもらって、太り気味なくらいでしたが。渡辺さんは、自分のことよりもナナちゃんを優先した生活をしていたのです。
娘さんは、「もう家で暮らすのは無理だから、老人ホームに入った方がいい」と何回も勧めたそうです。「ナナちゃんは、私が面倒を見るから大丈夫だ」と。常に犬を何匹も飼っている娘さんにとっては、ナナちゃんを引き取るのはうれしいことではあっても、ちっとも大変なことではなかったのです。
渡辺さんも、ナナちゃんのためには娘さんに託した方がいいとわかっていても、ナナちゃんと別れるのが嫌で、老人ホーム入居を拒んでいました。渡辺さんにとってはナナちゃんが全てだったのです。ナナちゃんなしでは生きていけなかったのです。
ペットと暮らせる特養を知り、入居
そんな行き詰まった状況で困り果てていた娘さんは、ペットと暮らせる全国唯一の特別養護老人ホームであるさくらの里山科を知ると、平日の夜、仕事後に渡辺さんの家に駆けつけました。
「おばあちゃん、ナナちゃんと一緒に入れる老人ホームがあるのよ」
そう告げた娘さんに対して、渡辺さんが発した第一声は、「そこに行けば、ナナちゃんは安心なのかい?」だったそうです。
自分自身の生活が限界だったのに、渡辺さんが、さくらの里山科への入居を決めた理由は、ナナちゃんのためだったのです。
こうして、渡辺さんとナナちゃんは、平成28年10月、さくらの里山科に入居しました。渡辺さんは79歳、ナナちゃんは3歳でした。(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)
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