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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

「未来医療プロジェクト」は何を目指す? 能率化が進んでも変わらぬ「医療の本質」

前回の「診察室での雑談」に反響

 前回のコラムは、「診察室での雑談」をお勧めする内容でしたが、いろいろと反響をいただきました。「私も主治医との雑談を楽しんでいます」という声があった一方で、「担当医はいつも忙しそうで、とても雑談なんかできる雰囲気ではありません」「雑談するよりとにかく待ち時間を短くしてほしい」といった声もありました。雑談どころか、自分の症状をうまく伝えることができずに困っているという方もおられました。「気になる症状はありますか?」と聞かれても、担当医に気を使って、「大丈夫です」と答えてしまうのだそうです。

「未来医療プロジェクト」は何を目指す? 能率化が進んでも変わらぬ「医療の本質」

イラスト さかいゆは

医者と患者 互いに心の余裕を持つには?

 医者のほうも、「早く診察をこなして、待ち時間を少なくしなければ」とあせっているのは確かです。「大丈夫です」と答えてもらえれば、「それはよかった。検査結果も問題ないので、治療を続けますね。お薬は前と同じでいいですね」と早口でしゃべって、電子カルテを素早く操作し、「お大事に」と言って診察を終了できるので、ありがたいと思ってしまうわけです。

 でも、診察室を出ていく患者さんは、本当は、気になる症状や、たくさんの不安をかかえているんですね。

 「何でも聞いていいんですよ」と、心を開いて、じっくりとお話ししたいとは思うのですが、本当に話し込んでしまうと、待合室で待っている患者さんの待ち時間をさらに長くしてしまいます。

時間が限られているからこそ、ちょっとした雑談で、お互いに心の余裕を持てるとよいのではないか、というのが私の考えですが、時間の余裕がない中で、心の余裕を持つというのは、そう簡単ではないのかもしれません。

患者の診察に何時間もかける医師パッチ・アダムス

 私の尊敬する医師で、その破天荒ぶりが映画にもなったパッチ・アダムスは、

 「患者を診るとき、わたしは何時間も費やして、その人のことを知ろうと努めた。両親や恋人、そして友人のこと、仕事や趣味のこと、その人のすべてを」(「パッチ・アダムスと夢の病院」主婦の友社、1999年)と書いています。

 私の理想とする医療もこれで、本当は、一人ひとりと時間を気にせずに語り合いたいのですが、さすがに、今の日本では、一人の患者さんに何時間も費やすのは難しい状況です。

 限られた時間の中で、患者さんも医療者も心の余裕を持てて、話したいことを話せて、心の距離も近く感じられる、そんな方法はないものでしょうか。

時間を有効に使える「チーム医療」

 一つ考えられるのは、薬剤師や看護師など、複数の職種が関わる「チーム医療」です。医者の診察の待ち時間や診察後に、別の医療者と話ができて、その情報を共有できれば、医者の診察時間をより有効に使えます。

 現在放送中のドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ系)では、病院薬剤師の活躍が描かれていますが、薬剤師も、チーム医療の中心となる存在で、その専門性を生かして、薬の副作用をチェックしたり、処方すべき薬剤を提案したりしてくれます。看護師も、患者さんに寄り添って、不安なことに耳を傾け、困っている症状に対するケアをしてくれます。医者には話しにくくても、薬剤師や看護師には話せるという患者さんもおられます。もちろん、医者にも気楽に話してほしいのですが、話しやすい場面で、誰かに伝えて、それを医療者が共有して対応するのが、「チーム医療」です。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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