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森本昌宏「痛みの医学事典」

医療・健康・介護のコラム

スポーツによる痛み…「野球肩」と「水泳肩」はどう違う? 予防と治療

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 健康ブームと言われて久しい。「体に良いことをやろう。体を動かさなきゃ」と思っているスポーツ大好き人間は、今も増殖し続けている。「泳ぐことをやめると死んでしまう」と言われているマグロのごとく、やれジムだ、やれプールだと、忙しく体を動かし続けている方が、私の診察室を訪れる患者さんのなかにもおられる。今年は新型コロナで我慢を強いられ、緊急事態宣言の解除後に「待ってました」と体を動かし始めた方も多いのではないだろうか。

 しかし、何事もやり過ぎはいけません。「健全なる精神は健全なる身体に宿る」ではあるが、孔子曰く「過ぎたるは及ばざるがごとし」。大脳生理学者の林 (たかし) 氏は、その著書『頭のよくなる本』(光文社)のなかで、「大脳生理学からみて、激しい運動は頭脳の働きを妨げる」としているのだ。「首にヘルニアを抱えているにもかかわらず、マシーンでのトレーニング」「膝の痛みに耐えながらスクワット(森光子さんにならって)」……といったおぼえがある方は気をつけてほしい。

関節、靭帯、筋肉の過労と疲労骨折

スポーツ再開! でもご注意…「野球肩」と「水泳肩」を防ぐ

 スポーツには痛みが付きものではあるが、これらスポーツによる傷害は、一定のスポーツを続けていることで体のある部分に異常を引き起こす「スポーツ障害」(使い過ぎ症侯群)と、1回の強い衝撃によって生じる「スポーツ外傷」(いわゆるけが)の二つに分けられる。

 スポーツ障害は、使い過ぎ、骨の配列異常などがもとで、関節、 靭帯(じんたい)(けん) )、筋肉の過労障害、疲労骨折を生じるものである。特に、靭帯が骨に付いている部位に炎症が起きたり、その付近を通る神経が締め付けられたりすることで発症することが多い。

 今回は、まず肩関節の周辺にみられるスポーツ障害を紹介する。

野球肩…肩関節に正常範囲を超えた動き

 「野球肩」は、主に投手が投球動作を繰り返すことで発生する肩関節(腱や腱板、骨)の障害の総称だ。肩関節の周辺には、皮膚の下にあるアウターマッスル(三角筋、大胸筋、広背筋など)と、さらに奥にあって肩を安定させているインナーマッスル( (きょく) 上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)とがあるが、これらの筋肉がアンバランスになることが大きな原因である。初期には、投げ始める時に痛みを感じるが、これは、体が温まるにつれて徐々におさまっていく。そのため、ごまかしながら肩を使い続けてしまう。「気がついたら肩がまったく上がらなくなってしまっていた」と訴えられることも少なくない。運動を続けたために、骨膜炎や腱板断裂を引き起こしてしまっているのだ。

 特に、ワインドアップ時に肩関節の後方に痛みが走り、加速からフォロースルーまでの間に肩関節の外側の後方から上腕の外側にかけて痛みを生じる場合には、 骨棘(こつきょく) (骨のとげ)を形成している疑いがある。1941年に、ベネットがプロ野球選手の肩の痛みの原因であると報告したことから、「ベネット病変」と呼ばれている。ボールをリリースする前後に痛みを感じる場合には、「SLAP(スラップ)病変」(上方肩関節唇損傷)の可能性がある。これは、肩関節内の軟骨である関節唇が傷んで起きる。

 野球肩のうち、小学生高学年にみられるものを“リトルリーグショルダー”と呼ぶが、二の腕の骨の、まだ十分には成長していない部分( 骨端(こったん) 線と呼ぶ)の障害が多い。したがって、リトルリーグでは、国際ルールとして、1日の投球回数を7~8歳は50球、9~10歳は75球、11~12歳は85球までとし、投球後は1~4日間の休息を求めている。

 なお、こういった肩関節の障害は、野球のみならず、バレーボールでのスパイク、バドミントンやテニスでのサーブなどを繰り返すことでも発生する。こうしたオーバーヘッドスポーツ(頭上で投げる動作を行うスポーツ)全般で、肩関節に正常範囲を超えた動きを強いていることを理解しておくべきである。

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森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

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