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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

目の機能と「うつ」とは意外に関係が深い

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目の機能と「うつ」とは意外に関係が深い

 うつ病を扱う精神医学系の臨床雑誌から、「眼科とうつ」に関する原稿依頼が私にありました。

 どういう内容にしようかと、ここ3、4か月、うつ病やうつ状態で私の外来に通院している症例をカルテでチェックしましたが、新型コロナ禍で外出するエネルギーがそがれているせいか、該当する患者の来院は減っていました。

 世の中が停滞して暗いと、人間はだれしも気分が落ち込み、意欲も行動力も減退します。もし、体のどこかに症状があれば、それが悪化したようにも感じやすいものですが、だからといって、この時期に病院に行くのは、それなりのエネルギーが必要です。

 さてカルテを調べてゆくと、目の症状によって、もともとあったうつ病が悪化している場合、またはその反対に、うつ病の症状の一部として視力低下や目が極端に疲れる、不快だといった自覚が出現している事例が見つかりました。勤務を続けられない、家事もままならないなど日常生活に相当影響が出ているケースもあります。

 今日の外来にも、次のような方が受診しました。自宅で照明器具の取り換え作業中に誤って落下して、右目を本箱の角に打ち付け眼球破裂を起こした60歳代の男性です。眼科に入院して3度の手術で修復され、なんとか失明は免れ0.08の矯正視力が残りました。しかし、事故前のように自在な階段の昇降や、車の運転ができず、事務の仕事も続けられない状態になりました。手術した眼科医に相談したところ、眼球は十分に修復しており、これ以上望まれても困る、とにべもない返事で、それ以上の質問は打ち切られ、もはや絶望の極みにありました。

 実はこの方、10年余り前からうつ病の薬物治療を受けていました。よく聞くと、落下事故は、その薬物の影響でふらついてしまったことが原因かもしれないと自ら証言しました。

 私は、突然の事故で目に著しい不自由が生じたことで、うつ病の症状も悪化したものと考えました。

 破裂した片方の眼球の視力が低下したことで両眼視機能(両目で見て距離感や立体感を測る機能)が失われたことが、日常生活に大きな不自由をもたらしたのです。ただ、なぜ不自由なのかや、これ以上の改善は医学的には限界があるとの説明が医師からなかったことで、状況が理解できず将来を悲観するまでになったのです。

 当事者が医学的状況を理解し、それを受容させる手掛かりを与えることは、医師の大事な仕事のはずですが、診断・治療はしても、なかなかそこまで行き届いていないのが現状なのでしょう。

 上記の方は、眼球の異常で生じた視覚の不都合がうつ症状を悪化させた例ですが、逆にうつ病が原因で両目の著しい視力低下という症状が出現したものの、うつ病の治療でゆっくり回復してきたという症例も時々みます。

 依頼原稿では、後者のことを中心に書こうかと思っています。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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