山中龍宏「子どもを守る」
子どもは成長するにつれ、事故に遭う危険も増します。誤飲や転倒、水難などを未然に防ぐには、過去の事例から学ぶことが効果的です。小さな命を守るために、大人は何をすればいいのか。子どもの事故防止の第一人者、小児科医の山中龍宏さんとともに考えましょう。
妊娠・育児・性の悩み
誤飲を防ぐには布で全身ぐるぐる巻きに? 歴史に見る“子育ての安全”
子どもは生後6か月頃になると、手が届くところにある口に入る大きさのモノをつかんで、口に持っていきます。保護者が見ていないと、口に入れたまま飲み込んでしまいます。誤飲は現在だけの問題ではなく、何千年も前から、子どもの事故の一つでした。人々はそれを知っていて、予防法を行っていました。その一つが、「バンビーノ」だったと私は考えています。
18世紀欧州の「バンビーノ」
ここで言うバンビーノとは、「布で固定された子ども」のことを指します。生まれた直後から1歳半、あるいは2歳になるまで、子どもの胸から下、手や足首にいたるまでを布でぐるぐる巻きにするのです。これは英語でスウォドリング(swaddling)と呼ばれ、18世紀のヨーロッパでは一般的な育児法でした。その当時に描かれた、乳児を抱いたマドンナなどの絵画でよく見られ、20世紀前半の生活記録写真にも残されています。
現在でも、モンゴルやロシア、南米の一部の地域で行われています。南米で実際に見学した正高信男博士は、「育児放棄ではなく、合理的な育児法である」と結論付けておられます。そして、「本来ならば日常生活の中で遭遇するはずの多くの危険から免れているという側面がある」とも述べておられます。 1)
私は、「側面」というよりも、育児上のリスク回避こそが大きな目的だったのではないかと思っています。2歳になってスウォドリングを解除すると、1週間もしないうちに、子どもは普通に歩きだします。これは「歩行の確立は訓練ではなく、もともとプログラミングされている」ことの証拠として、有名な現象です。
American Academy of Pediatrics(AAP:米国小児科学会)の記章はバンビーノで、1955年から正式に用いられています。このデザインは、15世紀に建てられたイタリア・フィレンツェの孤児院壁面に飾られた彫像から採られたものです。記章としてふさわしいかどうかはさておき、かつて一般的な育児法であったことを表しています。
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