がん患者団体のリレー活動報告
医療・健康・介護のコラム
小児脳幹部グリオーマの会
「小児脳幹部グリオーマ」(別称:DIPG)とは、脳の中央にある脳幹の内部に発生する小児脳腫瘍です。生命活動にとって重要な神経に染み込むように発生する悪性腫瘍が、神経細胞を傷害し、顔面や手足のまひを起こし、歩行や呼吸、血圧の維持が困難となっていく病気です。摘出手術は脳幹内の神経が傷つくリスクがあり不可能とされており、抗がん剤治療もほとんど効果がなく、放射線治療によって一時的な腫瘍の縮小が見られるのみで、半年以内に再燃します。発症と同時に余命宣告される最も厳しい小児がんです。当会は、患者、家族、遺族、医療関係者が情報交換し、交流することを目的として設立されました。
治療法が確立されていない小児がん 情報交換の場を
現在、会代表を務める 貫井孝雄 氏が2011年に6歳の一人娘をこの病気で亡くしたことをきっかけに、ネット上に掲示板を開設して、会をスタートさせました。その結果見えてきたのは、毎年、なすすべもなく多くの子どもたちが天国へ旅立っていく、過酷な現実でした。そして、懸命に病気と闘った子どもたちの勇気を未来につなげることが、私たちにできる唯一のことなのかもしれないとの思いに至ったそうです。
掲示板を開設して見えてきた患児と家族の孤独と現実
発症者が、年間わずか40~70例程度といわれる希少疾患であるにもかかわらず、掲示板には、多くの方からの反響をいただきました。病院には同時期に同じ病気の患児は、ほとんどおらず、患者家族は、孤立感・孤独感を深めていきます。そんなときにネットを介しての同じ経験者との交流は、わずかでも励ましとなっているという声をいただいてきました。
病気解説書「VOICE」の制作と無料配布
愛する我が子を失った悲しみを抱えつつ強い志を持った多くの仲間を得ることもできました。その結果、得られた成果の一つが、正力厚生会の支援をいただいて完成した病気解説書「VOICE」の刊行と闘病ご家族への無料配布です。
また、志を同じくする小児がん患者支援団体「トルコキキョウの会」(高木伸幸代表)との協力で、国への請願活動も始まり、2016年には、当時の厚生労働大臣に面会し、小児脳腫瘍患者の療養環境改善と治療研究の促進を訴える署名を提出する機会を得ました。その後も、シンポジウムの開催協力など、その啓発活動は様々な方の努力で大きな輪となりつつあります。
遺族の悲しみをいやすための交流会などを開催
お子さんを亡くされたご家族のグリーフケア(悲しみのケア)も、当会の大きな課題です。専門家による講演会の開催や当会有志による交流会などを通じて、遺族の皆様が何とかその大きな悲しみを胸に納める方法を模索していきたいと思っています。
診断・告知された後、この病気の進行はとても速く、そして厳しいものとなります。昨今の新型コロナウイルスによる患児のQOL(生活の質)への影響など、病気への課題は山積しています。我々にできることはごくわずかということを日々実感させられる重い病気ですが、今後も、闘病中の患児とご家族に少しでも寄り添う活動ができればと考えています。
小児脳幹部グリオーマの会
2011年5月発足。20年7月末現在、会員数は約50人。そのうち、遺族による有志ボランティアチーム「響」には30人近くが参加している。
主な活動はネット掲示板での情報交換、病気解説書「VOICE」の制作と無料配布、グリーフケア活動、他団体や有志との連携による啓発イベントの開催、国への請願活動など。会員個人での講演、メディア出演なども多数。
「VOICE」は今年6月に内容を再構成した第2巻「VOICE 2020」を発刊した。現在、希望者への無料配布を行っている。
ホームページ 小児脳幹部グリオーマの会 http://glioma-net.com/page6
トルコキキョウの会 https://torukokikyounokai.jimdofree.com/
第2回小児脳幹部グリオーマシンポジウム https://www.youtube.com/watch?v=l1r-u9KOLKw
このコーナーでは、公益法人 正力厚生会が助成してきたがん患者団体の活動を、リレー形式でお伝えします。
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