鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」
医療・健康・介護のコラム
胸郭が小さく肺が育たない胎児 わが子の「誕生」と「看取り」を同時に迎える夫婦にどう寄り添うか
妊婦(30)は妊娠30週のとき、胎児の発育が通常より遅れ、羊水の量も多いことから、総合周産期母子医療センターに紹介されてきた。入院後、胎児が小さい原因を特定するため、採血や画像検査を重ねた。CTで胎児の状態を詳しく診た結果、妊娠32週で胸郭低形成を伴う骨形成不全と診断された。単身赴任中の夫(35)は、急きょ、赴任先から戻り、妻と一緒に医師からの説明を聞くことになった。産科医からは、「画像診断の結果、胎児は重症の骨形成不全であり、胸郭が小さく肺が育たないため、出生後は身体に酸素を取り込むことができず、現代の医療では救命が難しい」と伝えられた。医師から子どもが助からないと伝えられると、妊婦は泣き出し、激しく動揺した。夫が最後まで話を聞くことにして、妊婦は同席していた助産師に支えられながら、病室に戻っていった。
妊婦は、前置胎盤(胎盤が正常より低い位置に付着してしまい、そのために胎盤が子宮の出口の一部あるいは全部を覆っている状態)だった。出産の際、通常は胎児、胎盤の順序で出るが、この妊婦の場合は順序が逆になって大量出血するリスクがあったため、入院を継続し、しかるべき時期に帝王切開で 分娩 することになった。
この夫妻には4歳になる長男がおり、入院中は近隣に住む妻の実母がみてくれていた。週末には夫が赴任先から戻り、長男を連れて病院へやってきては、車いすの妊婦と庭を散歩していた。担当の助産師も、できるだけ妊婦の気持ちが落ち着くよう、病室に何度も足を運び、話をする時間をもった。夫は、「半年後には単身赴任から戻り、家族4人で暮らすのを楽しみにしていること」「自分が一人っ子で育ったので、長男にきょうだいができたらと思っていたこと」などを話してくれた。次第に妊婦は落ち着きを取り戻し、「自分のお 腹 の中にいる間しか赤ちゃんが生きることができないのなら、その時間を大切にしたい」と、話すようになっていた。
しかし、妊娠35週頃になり、いつ帝王切開をするか、日程を決める時期が近づいてくると、「この子は私のお腹から生まれると、死んでしまうんですよね」と言い、ふさぎこむようになった。夫とは、いろいろと話はしているようだったが、生まれてくる子どもの話はできないようであった。
帝王切開の日程が決まると妊婦は…
最愛の子の出生と 看取 りを同時に経験するという筆舌に尽くしがたい思いと、そのような状況にある妊婦へのアプローチの難しさ……。この事例は、15年のキャリアがある助産師が語ってくれました。
週末にやってくる夫と長男との時間を楽しみにしており、その時間の妊婦はおだやかな様子でした。助産師は、来院した夫と話をする時間をつくり、妊婦の様子を聞いてみたところ、「少し元気がない感じはしたが、心配事を話すことはなかった」と言います。「長男がいるので、そのような話がなかなかできないのかもしれない」とも。助産師からは、「最近、帝王切開の日程が決まり、子どもの死というつらい現実が迫ってきたことで、気を落としている様子だった」と話しました。そうすると、夫は「え!? 手術の日は、赤ちゃんが生まれる日なんだから、めでたいんじゃないの?」と意外そうに言うのです。確かにその通りで、誕生の日なのです。助産師としては、こういったケースに対し、「生まれる」という言葉を使うことに慎重になっていましたが、夫には「素直な気持ちを奥さんに伝えてみてはどうか」と伝えました。
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めでたい日から9年経ちました。 先日、息子の誕生に際して、たくさん応援し、協力してくれた母が空へ旅立ちました。 きっと、空で息子と遊んでくれてい...
めでたい日から9年経ちました。
先日、息子の誕生に際して、たくさん応援し、協力してくれた母が空へ旅立ちました。
きっと、空で息子と遊んでくれているだろうと思うと、少し悲しみが癒されます。
気持ちの浮き沈みある私にいつも寄り添ってくれた、助産師さんへの感謝の気持ちは、今でも忘れません。
お医者さんのストレートな言葉へのフォローもとても有り難かったです。
助産師さんは私から見ると、いつもキラキラしていました!
大変なお仕事だとは思いますが、この仕事に誇りを頑張ってほしいと願います。
助産師さんは妊婦の味方をできる、大事な存在です。
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