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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

診察室で病気や治療に関係ないことを話してもいいんですか?

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 もちろんです。ぜひお話しください!「雑談」も大歓迎です。

 外来の診察は、時間が限られているため、病気のことや治療方針をお話しして、患者さんから、気になる症状や治療の副作用をお聞きして、対策を考えて、電子カルテに記載して、薬を処方して、次の外来を予約して……というのを短時間でこなさなければいけません。そんな状況ですので、診察室では、患者さんも医者も、緊張して身構えていることが多いと思います。待合室でお待たせしている患者さんがたくさんいる状況では、さらにあせってしまいます。

 でも、そんな状況だからこそ、「雑談」は必要なんです。

診察室で病気や治療に関係ないことを話してもいいんですか?

イラスト さかいゆは

 「時間がないから、必要なことだけ、急ぎのことだけを能率よくこなす」というのは、理にかなった考え方かもしれませんが、どこかにひずみを生んでいるように思います。

 「気になる症状はあるけど、これくらいならガマンできるし、担当医も忙しそうだから言わなくていいかな」

 「この治療のこと、なんとなく不安があって、もう少し話を聞きたいのだけど、時間もなさそうだし、受けちゃえばいいかな」

 なんていうことが積み重なって、副作用や不安が増幅し、医者への不信感につながったり、治療がうまくいかなくなったりするかもしれません。

 能率重視で、心の余裕をなくしてしまうのは、患者さんにとっても、医者にとっても、好ましいことではなく、長い目でみたら、医療の能率を下げているように思うのです。

雑談で生まれる心の余裕 安心感や症状緩和に

 やっぱり、患者さんにも医者にも、心の余裕が必要です。

 「こんなことしゃべっていいのかな」と思うようなことも、自然に話せて、それを受け止めてもらえる、というのは、安心感や、症状緩和につながります。

 「ここにちょっと違和感があるのですが……」

 「その症状は、この治療の副作用としてよくあるもので、心配ありませんよ。つらいようであれば、お薬出しましょうか?」

 「安心しました。つらくはないので、薬はなくて大丈夫です」

 「わかりました。もし症状が強くなるようなら教えてくださいね」

 このわずかな会話があるかないかで、その後の治療経過が違ってくるかもしれません。

 そして、このような心の余裕を生むのが、雑談です。家族の話、仕事の話、旅行の話、好きなスポーツやドラマの話、道端で見つけた草花のこと、日常生活で楽しかったことなど、いろいろあります。そんな話が、患者さんの口から自然にポロッと出てくると、私もうれしくなります。

 ゆっくり話し込むわけにはいきませんが、短い会話の中で、「私も○○が好きなんですよ」なんて返したり、盛り上がることもよくあります。毎回診察の最後に、共通の趣味について近況を報告しあう間柄の患者さんもいます。

(今回のイラストは、私の患者さんが、診察室での私との雑談風景を描いてくれたものです)

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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