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回想の現場

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高齢者に回想の楽しさを~女性講談師・一龍斎貞友さん

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 講談師で声優の一龍斎貞友いちりゅうさいていゆうさんは、昨今ブームが再燃している講談の世界で活躍している女性講談師ですが、地域の高齢者の会などで講談を読む機会が多いと話します。そのようなときは、演目を選ぶだけではなく、高齢者の耳に届きやすいように講談を読む工夫を凝らしています。そのような機会を数多く重ねることで、講談師としての高座修業にも役立つことが多いと感じているそうです。貞友さんに、高齢者の前で話すコツなどを聞きました。

 

高齢者に話を聞いてもらうには

アニメの声優としても第一線で活躍する講談師の一龍斎貞友さん

 「お年寄りの前で講談を読んだり、話をしたりする機会は結構多いです。病院や老人ホーム、お寺などに足を運んでいます」と貞友さん。売れっ子の講談師なので、1日に何か所も回るケースもあるといいます。そして、高齢者の心をつかむ芸に秀でているためか、一回口演したところから、繰り返し呼ばれることも多いのが貞友さんの特徴です。

 高齢者は耳が遠い人が多いので、口跡こうせき良くはっきり、そして講談を読むペースも通常より意識的にゆっくりするように心掛けています。せっかちな性格なので、しっかり間を取るようにするのも工夫の一つ。「声が大きいのは生まれつきなので、そこは得をしているかな」と笑います。

 もう一つ大事なのは、高齢者とのアイコンタクト。「お客さまを置き去りにしないように、皆さんの目をしっかり見ながら、『ちゃんとお話についていけているかな』と確認しながら、読み進めています」。アイコンタクトは、通常の講談席でも芸人として大事な心配りだといいますが、高齢者の場合は特にこの点を意識的に行っています。

 高齢者の集まりに行けば、軽い認知症の方がいるケースも多々あります。そのような場合には、「私の声が届いていますか」などと所々で声を掛けながら読み進めます。「認知症の方は一見、反応がないように見えます。でも、聞いていないわけではないんですよね。ちゃんと聞いてくださっています。そういうことも、経験を積んでだんだん分かってきました」と貞友さん。認知症の方が少し多いようであれば、昔の話を振るなどの工夫もします。話のマクラ(前置き)には一昔前の映画や歌舞伎の話題を持ってきます。聞き手に過去を思い出してもらい、脳の活性化につなげようという「回想法」の手法を用いています。

 

マクラの効用

大阪万博の会場(空撮、昭和45年=1970年)

 そのマクラですが、講談の話のとっかかりとして、貞友さんは様々な引き出しを持っています。「私は関西の生まれですが、父は山形出身なんです」というマクラから、高齢者の郷里の話を引き出したりとか、貞友さんが声優を務めているアニメの「ちびまる子ちゃん」「クレヨンしんちゃん」などの話から、昔のアニメの思い出話で花を咲かせたりするなど、バリエーションは豊富。「講談ですから、昔の武士の話などをすることもありますよね。そういうときは、家紋のうんちくに関するマクラとか、 古いことわざの話を真っ先に持ってくることがあります」。古典講談を読むときには、貞友さんの幼い頃の思い出話をすることも。「秋であれば、干し柿作りの話をすると、高齢者の方は喜んで自分たちの思い出話をしますね」。そこからグイグイ、古典の世界に高齢者をいざなうのです。

 新しいところでは、貞友さんが10代で経験した大阪万博(昭和45年=1970年)の話をすることもあります。「万博会場になった千里丘陵の近くに住んでいましたので、万博のために山を切り開く作業も間近に見ていました。千里丘陵では私もタケノコ掘りをしたことがあります。ごく日常の光景として、牛が放し飼いにされているような土地だったんですよ」。そんな話をマクラに持ってくると、高齢者の聴衆からは「太陽の塔はすごかったねえ」などの思い出話が次々と飛び出してきます。そうして客席を「温めて」おいて、本題の講談に入るというわけです。「回想」が、演者と客席との間の垣根を取り払い、聞き手に、時間や空間を共有しているという気持ちにさせます。「回想」の効果の一つと言えるでしょう。

 貞友さんは「一つの出来事を、私と高齢者で分かち合える。高座と客席が近しくなれる。講談師とお客さまが『ひととき』を共にするために、回想というマクラは大事だと思います」と、自らの豊富な経験をもとに振り返ります。

 

講談はお年寄りに受けます!

師匠の一龍斎貞水さん(左)に稽古をつけてもらう貞友さん

 「やっぱり、高齢者は古き良き日本人の人情を感じさせる講談が好きですね」。若者は手っ取り早く笑える落語が好きですが、貞友さんいわく、講談はストーリーの芸であり、笑いの要素の多い話もありますが、「人としてそうあってほしい」「人としてそうありたい」と思わせる人情味豊かな講談の芸を好んで聞いてくれるそうです。

 奥深い芸を聞いて、高齢者は自らの人生を振り返り、過去に思い通りにいかず、忸怩じくじたるものがあっても、それも含めてすべて自分なのだ、と肯定する。そこまで至れば、講談師としてはやった甲斐かいがあったというものです――と貞友さん。だからこそ、講談師にうまい下手はなく、技量というよりも、話し手の人間性がそのまま出る、と考えています。「私の人間性が高齢者をはじめとするお客さまに伝わって、心に届くかどうか。そこが講談師としての勝負ではないでしょうか」

 登場する人物の思い、状況、情景を掘り下げて表現し、過去に生きた人物をお客さまの前に現出させることができるかどうかが講談の醍醐だいご味。これからも高齢者に限らず、若い人の間にも積極的に飛び込んで、講談の魅力を伝えていきたい、というのが、貞友さんの揺るがぬ思いです。

(クロスメディア部 塩崎淳一郎)

人気講談師の一人として活躍する貞友さん

  一龍斎 貞友(いちりゅうさい・ていゆう) 大阪市生まれ。アニメの声優として芸能活動を開始。「忍たま乱太郎」のしんべヱ役、「ちびまる子ちゃん」のお母さん役、「クレヨンしんちゃん」のマサオ君役のほか、NHK「あさイチ」のナレーションなども担当。講談の世界には、平成4年(1992年)に人間国宝の六代目一龍斎貞水に入門、翌年初高座。平成8年(96年)に二つ目、平成16年(2004年)に真打ち昇進。講談「神田松五郎」「名医と名優」「村正改心録」などを手掛ける。

 

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