大人の健康を考える「大人び」
医療・健康・介護のコラム
「健口」で健康(18)抜けた歯 元の位置に戻せる
このシリーズでは、予防歯科学が専門の大阪大歯学部教授、天野敦雄さんに聞きます。(聞き手・佐々木栄)
ある日曜の夜、自宅の電話が鳴り響きました。ランニングクラブの仲間である50代男性からかかってきたものでした。
「マラソン大会後の宴会帰りに、溝に足を取られて顔から転倒した。上の前歯が2本、すぽっと抜け落ちてしまった。どうしよう」
平静を装いながらも不安げな男性に対し、「すぐに抜けた歯を捜し、牛乳に浸して大阪大歯学部付属病院の救急外来へ行くように」とアドバイスしました。1本は見つからなかったのですが、もう1本は当直の歯科医が元の位置にワイヤで固定し、2か月後、あごの骨にくっつきました。
外からの衝撃で永久歯が抜けることは意外と多いのですが、元の位置に戻すことができます。「再植」と言います。「とっさに入れたらくっついた」という人もいますが、治療は歯科医に任せましょう。
抜けた歯を牛乳に浸すのは、体液の成分と似ているからです。口の中に含んだ状態でも構いません。落ちて汚れたら水で洗う必要がありますが、ゴシゴシ磨くのは厳禁。歯の根元を覆う歯根膜がなくなると元に戻せなくなります。
欠けたり折れたりした場合は、痛みの有無が大事なポイント。神経が露出していれば、舌で触れたり水を口に含んだりすると激痛が走ります。放っておくと痛みがひどくなるので、すぐに受診してください。痛みがなくても詰め物やかぶせ物をしてもらいましょう。
あごの骨の中に埋まっている根の部分で折れた場合は、より深刻です。神経が傷ついていると激しく痛みます。残った根をいったん抜いて歯を再植できるケースもありますが、折れた位置が悪いと抜歯になります。いずれの場合でも自分で判断せず、きちんと歯科を受診することをお勧めします。
【略歴】
天野 敦雄(あまの あつお)
大阪大学歯学部教授。高知市出身。1984年、大阪大学歯学部卒業。ニューヨーク州立大学歯学部博士研究員、大阪大学歯学部付属病院講師などを経て、2000年、同大学教授。15年から今年3月まで歯学部長を務めた。専門は予防歯科学。市民向けの講演や執筆も多く、軽妙な語り口・文体が好評を得ている。
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