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認知症「本人告知」に課題…本紙調査 病院など300施設回答
認知症と診断された人に病名を告げるべきか――。がんは告知率が95%に達するが、認知症では必ずしも本人に告知されているわけではない実態が、読売新聞の調査で裏付けられた。病気の進行で内容を理解するのが難しかったり、家族が希望しなかったりすることが理由だ。(影本菜穂子)
家族には9割
読売新聞は1~3月、認知症を診療する医療機関1621施設にアンケートを行い、300施設から回答を得た。
本人と家族に、どのくらいの割合で告知しているかを尋ねたところ、家族には9割を超える施設が「ほぼすべて」と回答した。一方、本人にほぼすべて告知したとする施設は半数だった。「原則しない」との回答を含め、告知が5割以下という施設は19%あった。
本人に告知しない理由について複数回答で聞いたところ、「病気が進行し、内容の理解が難しい」(48%)、「家族から告知しないように依頼があった」(47%)がほぼ並んで多かった。
「ショックを受け、失望する」(35%)と本人の受け止めを心配する声や、より確実な診断のため「慎重に経過を見る必要がある」、「完治が望める治療法がない」などが続いた。
告知する理由では「病気や治療への理解を深めてもらう」(63%)が最も多かった。知る権利、治療法や人生設計などを決める権利を尊重するため、との回答も約60%に上った。
告知の問題を本人はどう考えているのか。
大分県の寺野清美さん(66)は3年前、病院の「もの忘れ外来」で若年性認知症と診断された。ただ、医師から説明を受けたのは付き添った娘だけ。帰り道、「もう運転はできないよ」と言われ、認知症だと察した。「死にたい」という言葉が頭に浮かんだ。
現在は介護施設で調理の仕事をしている。自分の症状を同僚に伝えており、理解してもらっているという安心感がある。「受け入れるまで時間はかかったが、早めに知った方が閉じこもらずに新しいことに挑戦できる」と話す。
サポート不可欠
がんの告知率は30年前の15%ほどから、2018年には95%まで上昇した。患者の知る権利が重視されるようになったことと、治療法が進んで生存率が上がったことなどが背景にある。
一方、認知症の人と家族の会東京都支部には「病名だけを告知され、本人が落ち込んでいる」との相談が家族から寄せられる。代表の大野教子さんは「家族も不安に感じる。告知と同時に『一緒にやっていきましょう』とサポートにつなげられるといい」と話す。
「どうすれば日常生活を続けていけるか考える出発点」。東京医大高齢診療科教授の清水聡一郎さんは、原則として病名と症状を患者本人に告げる。信頼関係を築くため、隠さない方が良いとの考えに基づく。
ただ、受け止め方は「その人が抱いてきた認知症に対するイメージに左右されることが大きい」という。「認知症になったら何もできなくなる」と誤解する人は、病名を聞いただけで拒絶してしまう。清水さんは「認知症への理解が社会全体で進めば、告知はもっと当たり前になる」と語る。
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