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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ感染が心配なので、抗がん剤治療は延期してもいいですか?

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がん研有明病院では「がん診療の優先度」を3分類

 がん研有明病院では、新型コロナの感染の広がりを受けて、今年3月から各診療科で、「がん診療の優先度」を決める作業を行いました。薬物療法、手術、放射線治療、各種検査、経過観察のための外来受診、回診、緩和ケアなどについて、ベネフィットの程度に基づいて優先度を分類したわけです。

 たとえば、乳腺内科では、抗がん剤などの薬物療法を、

 レベル1:ベネフィットがあるとしても、治療中断による影響はあまり大きくないもの

 レベル2:ベネフィットが確実にあるが、新型コロナの広がりによっては治療中断も検討すべきもの

 レベル3:治療中断のリスクが高く、最優先で治療を行うべきもの 

という3段階に分類しました。

 感染拡大によって診療が制限された場合に、優先して診療を行うべき患者さんを決めるという目的もあったのですが、現時点では、診療が制限される状況にはなっておらず、この分類に基づいて患者さんを選ぶということはせずに済んでいます。

医療従事者間でも議論 診療に生かす

 この分類をする過程で、医療従事者の間でも、「ベネフィット」の程度について、改めて深く議論が行われ、その議論は患者さんとの話し合いにも生かされました。患者さんにとっても、自分が受けている治療の必要度を意識するようになったのはよいことだと思っています。

 実際のところ、レベル1に該当する治療で、患者さんが希望した場合には投与間隔を延ばしたり、治療を中断したりすることもありました。ベネフィットが同程度の治療への変更で、通院頻度を減らせるような場合には、患者さんの希望によって治療を変更することもありました。また、内服薬のみの治療を行っている患者さんについては、通院を控えて電話診療のみでの薬の処方も行っています。

 治療の優先度を議論する中で改めて感じたのは、リスクやベネフィットの程度を一律に決めるのは難しいということでした。治療のベネフィットは、一人ひとりの病状や治療目標や価値観によって違います。新型コロナのリスクも、住んでいる地域や通院の方法によって違いますし、感染状況や医療機関の状況によっても左右されます。現時点では、必要な診療が受けられないという状況にはなっていませんが、今後の状況によっては、それも考慮するようになるかもしれません。

 いろいろな要素を考えなければいけないわけですが、まずは、一人ひとりが、今受けている治療のベネフィットを見つめ直し、新型コロナを含むリスクとのバランスについて、担当医とも話し合ってみることが重要です。そして、納得できるようでしたら、感染対策を十分にとりながら、治療を続けていきましょう。

 また、ご自身に感染症状が疑われるような場合には、すぐには病院に向かわず、病院に問い合わせた上で、指示に従うようにしましょう。

 大変な状況だからこそ、お互い力を合わせて、うまくやっていきたいですね。(高野利実 がん研有明病院乳腺内科部長)

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大付属病院で研修後、2000年より東京共済病院呼吸器科医員、02年より国立がんセンター中央病院内科レジデントとして経験を積んだ。05年に東京共済病院に戻り、「腫瘍内科」を開設。08年、帝京大学医学部付属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に最年少部長として赴任し、「日本一の腫瘍内科」を目標に掲げた。10年間の虎の門時代は、様々ながんの薬物療法と緩和ケアを行い、幅広く臨床研究に取り組むとともに、多くの若手腫瘍内科医を育成した。20年には、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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