アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直
医療・健康・介護のコラム
脱走① 警察官に取り囲まれていた息子 いったい何が?…「二度と会えないかも」と思った日のこと
行動範囲が広くなるにつれ、学校や自宅から一人で脱走することが増えた洋介。探すにも手掛かりがなく、「もう二度と会えないんじゃないか」と思ったこともあった。帰省ラッシュの羽田空港で見失ってしまったのだ。

イラスト:森谷満美子
数万人の海にのみ込まれ
自閉症の人には、長距離の乗り物が苦手な人も多い。飛行機内のような狭い空間で、長い時間じっとしていることができず、立ち歩いたり、大きな声を上げたり……となれば、同伴する家族にとっても、本人にとっても、かなりのストレスだ。障害のある子を育てる親たちからは、「飛行機も新幹線も絶対ムリ!」という声をよく聞く。
幸か不幸か、わが家の場合、僕の実家が北九州だったので、移動に飛行機や新幹線は使わざるを得なかった。洋介も1歳になる前から飛行機に乗っていて、その時も、北九州の祖父母の家に向かう途中だった。
搭乗まで時間があったので空港内の書店に立ち寄ったのだが、書棚を見ている一瞬の隙に姿を消したのだ。羽田空港の利用者は1日当たり平均約20万人というが、その日は平均をはるかに超える人が集まっていただろう。とりあえず行きそうな場所、おいしそうなものがあるお土産屋さんや、入ったことのあるレストランなどを探したが、いない。インフォメーションで聞いても、洋介らしい迷子の情報はなかった。
見失ったことはこれまでもあったが、人出も広さも桁が違った。5メートル先も見えない雑踏。数万人の海に消えた洋介を探すのは、気が遠くなるようだった。発達障害のある子が東京で何日も行方不明になっているニュースを耳にした後でもあり、今度ばかりは「もう会えないかもしれない」という思いがちらついた。その時……。
なぜか搭乗ロビーに
職員からの知らせを受けて妻が駆け付けると(その時、僕は独自に捜索中だった)、立っていたのは体の大きな数人の警察官。威圧感のある制服に囲まれ、まだ小さかった洋介が、何事もなかったような顔で立っている。説明によると、一人で保安検査場を通過していて(なぜ入れたのか?)、搭乗ロビーにいたのだそう。警察官の質問にも答えないので、困っていた様子だ。
大人になった今は、何でも先取りしてすませようとする、せっかちな洋介だが、この頃から 片鱗 を見せていたようだ。何度も利用したことのある空港だから、いつものゲートを通って、さっさと乗り込もうとしたのだろう。この騒ぎの間に、予約していた便はもう出発してしまっていたが、航空会社が次の便に席を確保してくれたため、無事に帰省することができた。
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