中川恵一「がんの話をしよう」
医療・健康・介護のコラム
がん死のほとんどが「遠隔転移」 防ぐには?
人間の遺伝情報を語る「テキスト」といえるのがDNAです。これを構成する四つの塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)のどれかが突然変異すると、テキストの中の「単語」にあたる遺伝子が変わり、発がんにつながります。
細胞のがん化に関与する遺伝子の数は140個程度です。この中には、変異によってスイッチが入ると正常な細胞のがん化が進む「がん遺伝子」と、機能しなくなることによってがん化を抑えられなくなる「がん抑制遺伝子」があります。
たとえば、上皮成長因子受容体(EGFR)は細胞の表面に存在し、増殖を制御する信号のような役割を担うたんぱく質です。この遺伝子に特定の変異が起きると、細胞を増殖させる信号が常に青となり、発がんにつながります。分子標的薬「イレッサ」は変異したEGFRの働きを抑える抗がん剤です。
性交渉によって子宮 頸 部に感染したヒトパピローマウイルスは、がん抑制遺伝子であるp53遺伝子やRb遺伝子の働きを抑えます。このため子宮頸がん発症の原因となるのです。
「原発巣」の治療はかなり進んだ
がん発症の仕組みについて説明しましたが、私を含めたがん患者が一番恐れるのは、がんの「遠隔転移」です。これは、がん細胞が元々生まれた臓器を離れて、別の臓器に移動して増殖することを指します。例えば「肺がんが脳に転移する」というようなことです。実は、がんで亡くなるケースのほとんどは、この遠隔転移によります。
初めにがんができた場所(「原発巣」と言います)は、手術や放射線治療の進歩で、かなり治療可能になりました。原発巣が原因で死ぬことは少なくなりました。もし、遠隔転移を予防したり、遠隔転移したがんを治したりする方法が見つかれば、がんによる死亡は激減します。それは人類の悲願である、「がんの克服」であると言ってもいいでしょう。ですから、遠隔転移が起きる仕組みの解明はものすごく重要です。
1 / 2
【関連記事】
遠隔転移
グルカン
がんも早期発見、早期治療が大切だと思っております。 下手におびえない方がいいのかもしれませんが 骨転移やそれに伴って歩行に支障が出たり、日常生活...
がんも早期発見、早期治療が大切だと思っております。
下手におびえない方がいいのかもしれませんが
骨転移やそれに伴って歩行に支障が出たり、日常生活を支援なしでは
送られない生活を考えると不安になったりします。
ビビリな自分がいる事を認めざるおえません。
つづきを読む
違反報告
がん死に至る前のどこで病変を見つけるか?
寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受
癌の足場になる微小環境の議論があって、よくある体質改善の神格化に繋がりがちですね。 癌の転移も、原発巣が大きくなって破片がそのまま転移を起こすの...
癌の足場になる微小環境の議論があって、よくある体質改善の神格化に繋がりがちですね。
癌の転移も、原発巣が大きくなって破片がそのまま転移を起こすのか、悪性化するほどに転移しやすくなるのか、それ以外のなんらかがあるのかは文中にあるようにまだ研究中です。
重要なのは白黒はっきりつけ過ぎない物言いではないかと思います。
理由は例外事項は弱っている人には輝いて見えるからです。
癌の個性を生み出すのは、人間の個性、遺伝子の個性、生活環境の個性、科学の不確実性、その他諸々で、全ての癌が必ずしもセオリーに従ってくれるわけではないですが、多くの癌は早期発見し、原発巣や転移巣に主に標準治療やその亜型を用いてダメージを与えることで、多くの場合進行を遅らせることができます。
一方で、治療手段が局所や全身に与える影響はプラスだけではなく、まれに自然に消えるものやその他の例外も存在します。
ですが、多くの場合、早期発見に努め、癌や一般的な物事の学習、生活の整理などを進めたうえで、各種治療や無治療での経過観察などのオプションを持つことが多くの人にとってベターながん治療だというのは間違いないと思います。
これからの時代、相手が医師でも一方的に押し付けるように感じられたら不快に思われる患者さんもおられるでしょう。
新型コロナの状況下での運用は大変ですが、遠隔転移やリンパ節転移から原発巣がみつかることもあり、CTやMRIあるいは核医学検査のシステマチックな運用の重要性は増しているのではないかと思います。
目に見えると素人でもわかりやすいですから。
つづきを読む
違反報告