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産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」

医療・健康・介護のコラム

「秘密組織に監視されている」と課長が突然おびえ始めた……何が起きた?

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 ある日、私が企業の精神科医をしている相談室に、40歳代で大企業の課長職の岡田さん(仮名)が妻とともに訪れました。以下が、そのやり取りです。

「秘密組織に監視されている」と課長が突然おびえ始めた……何が起きた?

イラスト 赤田咲子

私は集団で監視されている

岡田さん:(怒りを帯びた硬い表情で)先生、来たくなかったんですが、妻がどうしてもと言うから……。

妻   :よろしく、お願いいたします。(夫を心配そうに見つめながら)あなた、眠れていないし、おびえているような感じ。もう心配で、心配で。

私   :(彼は 憔悴(しょうすい) しきって、表情は硬く、目もうつろでした。確かにおびえています)岡田さん、何か不安か恐怖があるのでしょうか?

岡田さん:身近な人に、何回も何回も訴えてきたのです。誰も分かってくれないんです。

妻   :分かろうとはしているのよ。でも……。

私   :どんなことでしょうか?

岡田さん:(おびえ切った態度で)私を監視している集団がいる。彼らが私を陥れようと策動しているんだ。妻も分かってくれないんだ。

妻   :あなたがつらい思いをしているのは、分かるんだけど。でも、理解できないのよ。

私   :岡田さん、監視されているの? いつ頃からかな?

最初は錯覚と思ったが……

岡田さん:3か月前に、急に気づきました。最初は錯覚と思っていましたが、見ることが出来たんですよ。

私   :急に?

岡田さん:突然! それまでは何もなく、仕事もそれなりに順調で。

妻   :夫は、急に変わってしまいました。理解しようと何回も聞きました。大変なことが起こっていると驚きました。ひょっとしたら認知症の前触れではないかと、思ったりしました。

私   :会社の人は、どう言っています。

岡田さん:最初は理解してくれましたが、そんなことはないと言うばかりで、分かってくれないんですよ。

私   :会社も理解できていない?

岡田さん:何回も、部長などに説明したのですが、君の訴えは理解できないと。

妻   :会社から連絡があって行きました。

私   :会社での話し合いの内容を教えていただけませんか?

尾行され、隠しカメラも

部長  :部長の佐々木(仮名)です。急に、お呼びだてして、申し訳ないです。

次長  :上司の井沢(仮名)ですが、ご主人が3か月前から、急に人が変わったようになり、戸惑っています。

人事課長:人事課長の中田(仮名)です。家庭では、どんな状態かを知りたいのでお話をおうかがいしたいと思っています。

岡田さん:何回説明しても分かってくれないんだ。

妻   :皆さんが言われるように、急に変わってしまったんです。理解しようとしても、分からないことばかりで。会社でも事情をおうかがいしたいと思っていたところです。

部長  :そうですか。「会社での彼」と「家での彼」と同じなんですね。

妻   :そうです。MK集団から尾行され監視され、脅迫されている。隠しカメラやビデオも使っている、と繰り返しています。

次長  :MK組織って、彼が何回も言うので。我々も海外支店などと連絡を取って調べましたが、「そのようなものはない」というのが結論です。

岡田さん:(遮るように大声で)秘密組織だ、俺にだけわかるんだ。

部長  :あり得ないんですよ。 

岡田さん:違う、分からないんですか? どうして、皆、分かってくれないんだ(恐怖に震えながら泣き出す)病気ではないんだ。

部長  :警備会社に頼み、そのような機器類がないかどうか、数日がかりで調べてもらいましたが、何もないという返事でした。

 このようなやり取りが30分くらい続き、堂々巡りになっています。部長と人事課長は、妻を別室に呼んで、話し合いの場を持ちました。

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natsume-prof

夏目誠(なつめ・まこと)
 精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。日本産業ストレス学会前理事長。著書に「中高年に効く! メンタル防衛術」「『診断書』を読み解く力をつけろ」「『スマイル仮面』症候群」など。新著は企業の人事や産業医向けの「職場不適応のサイン」。ブログ「ストレス点数の夏目」はこちら

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2件 のコメント

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リストラ工作の可能性も考慮すべきです.

リストラ被害者

企業が社員をリストラするためにその社員を精神病に追い込む事例が多数報告されています.この記事の方の場合,一人の人物に対して暴力団や探偵を利用して...

企業が社員をリストラするためにその社員を精神病に追い込む事例が多数報告されています.この記事の方の場合,一人の人物に対して暴力団や探偵を利用してストーカー行為をくりかえし,社内や周辺の人物にもガスライティングされているように見えます.企業によるリストラ工作の被害者の可能性が十分あると思います.
このような場合,被害者が産業医に相談すると「統合失調症」と診断され休職から退職となることが十分予測できます.
その過程は一方的な欠席裁判でしかありません.なぜなら精神科医に「統合失調症」と診断されると被害者からは反論の余地がありません.反論しても病識のない病気と診断されます.それに怒り,感情的になるほど「暴力的な異常者」と扱われます.
このような企業による反社会的なリストラ工作は一度徹底的に糾弾されるべきです.
精神科医と結託した犯罪を放置すると日本は暗黒社会にしかなりません.
国連は日本の精神病院での拷問は非難していますが,日本政府は全く反省していません.

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他所の国の外交官には盗聴器や尾行が当たり前ということが、元外交官の本にも書いてあります。 潜在的な敵に対してそのような行為は行われうるということ...

他所の国の外交官には盗聴器や尾行が当たり前ということが、元外交官の本にも書いてあります。
潜在的な敵に対してそのような行為は行われうるということです。
ですので、集団による様々な監視はあり得るという判断が大事です。
秘密組織とかの前に、疑うべきものがあるはずです。

実際、テロ対策として、日本や各国も通信情報のチェックを採用していると報道がありました。
もっとも、一般人が理由なく長期間監視されるはずはありません。
理由は監視する方も戦力に限界があるからです。

一方で、商売敵や同じ会社の誰かにとって都合が悪くなったために、何らかの措置がとられることはあり得ます。
いまどきスマホがあれば、秘密結社でなくても多少はできるでしょうし、スマホは皆持ってますから疑心暗鬼のブーストはあり得るでしょう。

大企業の課長ともなれば、決済権や情報もそれなりのものがあるでしょうし、様々な競争があります。
持っている情報によっては産業スパイのターゲットにもなるでしょう。

精神疾患を発症していたとなれば、その人の責任にして退場させられますので、それが都合よく感じる人もいるでしょう。
他の案件でも精神疾患の病名は、法的な様々な問題が絡みます。
なので、本来的には、仕事の利害関係や職場の人間関係のよくわかる産業医や内科医が望ましいです。
精神疾患を疑う前に、まず一度落ち着いて、その辺の利害関係の整理をして、手の届く可能性があれば対策を練るのが大事だと思います。
精神科医みんながそれを理解しているわけでもないし、職場や地域の同調圧力とかに精神科医が逆らえない可能性を考えれば、精神保健指定医に認定される意味に怯えるのは普通だと思います。

組織に代えの効かない人間なんかほとんどいませんが、個々人はその人1人1人の人生です。
困った時に上手に立ち直らせてくれる会社であれば、社員の忠誠心も高まりますよね。

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