文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

ピック病(認知症)介護『父と私の事件簿』

介護・シニア

歯ぐきの中に残った根っこが12本!? 80代認知症の父…医師は「誤嚥予防のため、抜きましょう」と言うけれど

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 「それ、 嚥下(えんげ) 障害が進んだんじゃない? 嚥下障害が進むと、誤嚥性肺炎を起こして危険よ。高齢者はそれで亡くなる方が多いから」

 ケアマネさんが言った。知ってる。うちの祖母も、それであっという間に亡くなった。入れ歯を掛けていた歯がとれてしまい、今の口の状態にあった入れ歯を作っている間、父は、それまでしていた入れ歯を歯科で微調整してもらって食事をしている。

 が、気がつくと、食事の途中で、ごほんごほん、ものすごいせきをして、その後には、食べ物を噴きだすほどむせている。以前にも時々、そういうことがあったが、今回はあまりにもせきがひどくて長く続く。しまいには洗面所で 嘔吐(おうと) する事態となり、これはまずいのではないかとケアマネさんに相談したのだ。

策はないでしょうか? ありません

 

歯ぐきの中に残った根っこが12本!? 80代認知症の父…医師は「誤嚥予防のため、抜きましょう」と言うけれど

 ケアマネさんに相談する前に、父が糖尿病で通院している近所の開業医の先生に、緊急事態宣言中だったため電話で処方箋を出してもらうついでに相談もしてみた。

 「嚥下障害が進んだようなのですが、何か症状を改善する薬はないのでしょうか?」「ありません」。「症状を緩和するような体操とか、何か策はないでしょうか?」としつこく聞いても、返事は「ありません」とだけ。

 なんというか、嚥下障害に興味がなさそうな対応だ。うちの父はピック病(認知症の一種)だが、「改善する薬はないか?」と専門医に聞いた時もこんな感じだった。しょうがないんだろうけど、なんか乾いた気持ちになるものだ。

 開業医の先生とのやり取りについても含め、ケアマネさんに話した。「同じ内科でも、高齢者の訪問医療などをしていて、もっと総合的に診てくれる医師に相談しよう」ということになった。その先生のところに行くと、今度は「うちの市で嚥下障害の改善に力を入れている外来のある病院があるから、そこへ行ってみたらどうでしょう」と提案される。そういう病院があるのか。初めて知った。

歯科衛生士2人が訪問聞き取り

  教えてくれた二つの病院のなかから、行きやすいほうの病院を紹介してもらった。そこは、月に1度、大学病院の先生やその他の専門家を招き、嚥下障害の専門外来を開いているという。まず、電話して父の状況を話すと、事前に歯科衛生士さんが2人も自宅に来て、状況の聞き取りや食事をする様子の撮影をするというではないか。「え~。家の中、ひっくりかえってるし、掃除する気力もないから無理」と思って、「すみません。家に人を入れられる状況ではないのです」と話すと、「玄関先で大丈夫です」と言うので、来てもらうことにした。「いつも食べているお食事を、用意しておいてください。目の前で食べてもらって撮影します」と言うので、またもや「みすぼらしい食事の撮影はいやだし、面倒くさい」と思ったが、「ちょっとずつでいい」とのことなので、朝ごはんに用意したものを少し残しておいて使うことにした。

 ところが、想定外のことが起きた。歯科衛生士さんの来訪に向けて算段をしている間にも、父は、間に合わせで入れている元の入れ歯の状態の調整に行きたがったのだ。そのため、新しい入れ歯を頼んでいる近所の歯科医院に、ほぼ毎日通っていたら、約1週間ほどでわりといい状態に収まったのか、歯科衛生士さんたちが来る前日には、げほげほせきが治ってしまった。どうやら、あのひどいせきと嚥下障害の原因は、引っ掛けていた歯がとれたために、合わなくなった入れ歯の具合にあったようだ。

 改善してしまったので、「もういいです」と断ろうとも思ったが、せっかく紹介してもらったし、入れ歯で苦労する前から嚥下障害っぽい傾向はあったので、そのまま来てもらった。2人の歯科衛生士さんが、父の今回の入れ歯騒動と症状、日々食べているもの、認知症の様子などを聞き取る。けっこう詳細に聞いてくれ、長い時間がかかる。

父本人も質問され、「私はどこも悪くありません」と言っている。「だったらこんなことになってないでしょう!」とわめきたくなるが我慢。

 そして、朝ごはんに食べている雑穀ごはんの軟らかいもの、干物、煮豆、納豆を少しずつ持ってきて、父が食べる様子をデジカメ撮影する。のどにマイクのようなものをつけ、食す時の音も () る。約1時間ほどで歯科衛生士さんたちは帰って行った。月に1度の嚥下外来が、その週末にあるというので、なりゆきで行くことになった。緊急事態宣言の間だったので、あれこれ検査するために病院に行くのは避けたかったが、逆に受診控えでものすごくすいているそうで、かえって安全かもしれないと思い直す。

1 / 3

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

20190329_atanaka-prof_200

田中亜紀子(たなか・あきこ)
 1963年神奈川県鎌倉市生まれ。日本女子大学文学部国文学科卒業後、OLを経て、ライター。女性のライフスタイルや、仕事について取材・執筆。女性誌・総合誌などでは、芸能人・文化人のロングインタビューなども手がける。著書に「満足できない女たち アラフォーは何を求めているのか」(PHP新書)、「39.9歳お気楽シングル終焉記」(WAVE出版)。

ピック病(認知症)介護『父と私の事件簿』の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事