Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登
医療・健康・介護のコラム
職務質問での懐中電灯が凶器に?…羞明という病気の重大さ

今年度の厚生労働省の障害者総合福祉推進事業で、「羞明(まぶしさ)等の症状により日常生活に困難を来している方々に対する調査研究」が始められることになったことを、前回取り上げました。
これに対し、当事者たちからは、ぜひ調査に協力させてくださいなど、好ましい反応が多くありました。しかし、そんな方を見たことがないという反響も、一般の方や医師からもありました。その裏には、それほどの問題なのかという疑問があるようです。
高度の羞明を持った方は、そもそも屋外に出ることは少ないし、なかなか妥当な診断が得られないこともあって、医療機関からは遠ざかってしまう方もいるため、目立たないのかもしれません。
しかし、眼科、神経内科、精神神経科などで結論が得られない方が、本コラムや自著を読んで、毎週2人か3人は全国から来院しますので、決して珍しい症状とはいえないと思います。
こうして多くの患者に出会っているうちに、これはただ事ではない、と実感してきました。なにしろ、ものを見続けることができず、光をできるだけ避ける環境にいなければならないとすれば、日常生活は相当に制限されます。それにもかかわらず、この病気は認識されていないし、現行法では障害者にも容易に認定されないからです。
羞明を持つ患者にとって、サングラスに帽子は必須のアイテムです。眼鏡はよく見えるようにする道具なので、光の透過率の低いものは日本産業規格(JIS)のルールで、製品にはできなかったようです。そこで患者は、サングラスを二重にするとか、電気溶接用の保護眼鏡を利用するなどしているのが実態です。近頃、HDグラスと呼ばれる光透過率1.5%の羞明者用の眼鏡が、「眼科医の指導のもとに」とのただし書き付きで、ようやく商品化されました。
ところで、高度の羞明を持つ患者も、時には外に出たいものです。微小な光でも入らないようにと、サングラスに深々とした帽子、現在ではそれにコロナ感染拡大防止のためマスクといういで立ちで夕刻、夜間に外出しますと、怪しい人がいると警戒され、通報されるかもしれません。事実、警察官から職務質問をされたという方も何人かいました。
ある40歳代の男性患者は「こういう格好だから職質されるのは仕方がない。だけども、光を避ける万全の準備をしているのに、巡査は強力な懐中電灯を顔に当て、サングラスを外せと要求する。すると、一気に気分が悪くなり倒れてしまう恐れもある。いったんそうなれば、回復するのに何日も何か月もかかる。だから、『ライトを当てるな』と書いた先生の診断書がほしい。職務質問を受けたら光を当てられる前に、まずこれを読んでくれと巡査に差し出すのだ」というのです。
こういう病気があることを知らなければ、懐中電灯の光が“凶器”にさえなることを、一般の方が想像するのは確かに難しいでしょう。
その意味でも、今回の厚労省の実態調査が、高度の羞明がいかに重大で厳しい問題なのだということを社会が知る契機になればよいと思います。
(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
実態調査の結果を知りたいです
みき
「羞明」という言葉を初めて聞きました。そして、それが病気とは認められていないのに、非常に生きづらいということも。 私はパニック障害を患っていて...
「羞明」という言葉を初めて聞きました。そして、それが病気とは認められていないのに、非常に生きづらいということも。
私はパニック障害を患っていて、現在は病気とそこそこ折り合いをつけながら生きれていると思います。時折、ひどく蛍光灯が眩しく感じられ、座っていることさえもつらくなる時があり、そういう時はパニック症状が出ている時だと気づくことがあります。私の所見ですが、パニック症状がひどくなる時には、五感が敏感になるようです。特に、匂いと光には過敏になります。逃げ出したいくらいです。そういうことも厚労省の調査で明らかになり、生きやすい世界になればいいなと思います。
このコーナーで実態調査の結果も教えていただけると幸いです。
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若倉雅登
みき様 コメントありがとうございます。「羞明」を視覚過敏ととらえることも、感覚過敏の一部としてとらえることもできます。これまでにも、片頭痛、パニ...
みき様 コメントありがとうございます。「羞明」を視覚過敏ととらえることも、感覚過敏の一部としてとらえることもできます。これまでにも、片頭痛、パニック障害、広場恐怖、発達障害、線維筋痛症の一部の方で高度の羞明を持つ人がいることは、文献上わかっていました。このほか、神経系薬物の副作用としてみられることもあります。しかし、眼球に原因のない「羞明」をテーマの中心にして検討した調査や研究は日本にも海外にもなかったので、実態はわかっていませんでしたし、そういう症状を持つ人が「羞明」のためにどれだけ苦痛があり、その人の生活に影響するかは当事者以外の誰も知らなかったのです。そういう意味で今回の調査は、世界に先駆けた意味のある社会医学的調査になると私も期待しています。もちろん結果がまとまれば、このコラムでも話題にしたいと思います。
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