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森本昌宏「痛みの医学事典」

医療・健康・介護のコラム

病気が治っても消えないのが「慢性痛」 悩む前に受診を

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 歌舞伎や浄瑠璃の舞台で、石川五右衛門は決め 台詞(ぜりふ) の「浜の真砂が尽くるとも……」とともに 大見得(おおみえ) を切る。この台詞を借りるならば、痛みはまさに「浜の真砂」であり、原因や症状は千差万別なのである。それゆえに、その分類に関しては、さまざまなアプローチが試みられている。さて、今回は、その分類の第1段階について紹介してみよう。

急性痛は必要な警告信号

 痛みは、大きく「急性痛」と「慢性痛」の二つに分けることができる。指を切ったり、火傷を負った時などに起こる急性痛は、身の回りにあるさまざまな危険から私たちを守ってくれる警告信号であり、「生理的な痛み」と言えるのだ。

 一方、ペインクリニックを受診される患者さんの多くを悩ませている慢性痛は、人間にとって必要のない「病理としての痛み」である。不必要な信号が鳴り続けているだけで、百害あって一利なし、なのである。

 急性痛が「原因がなくなれば、消える痛み」であれば、慢性痛は「原因がなくなっても、消えない痛み」と言える。したがって、急性痛が長期間にわたって続いても、それは慢性痛ではない。痛みの原因がなくなっていなければ、その痛み(関節リウマチによる痛みなど)は急性痛なのである。

 一方で、慢性痛は、過去に 末梢(まっしょう) 神経や中枢神経系が何らかの障害を受け、さらには自律神経系が異常を起こしている状況下で作り出される。端的に言えば、痛みに対する感受性が高まっている(「感作された」と表現する)状態である。慢性痛は意欲の低下、食欲不振、不安やうつを引き起こす。その結果、自分の殻のなかに閉じこもってしまうことだってあるだろう。イライラしたり、怒りっぽくなってしまうことも。これらのことから、慢性痛は単なる病気の症状のひとつではなく、独立した症候群と考えたほうがよい。

米国の経済的損失は年600億ドル

 米国では、国民の約3分の1が慢性痛を有し、そのために約6000万人が活動に制約を受けているとのデータがある。医療費を含めた経済的損失を試算すると、年間600億ドルにも達するのだ。つまり、慢性痛は個人のみならず、社会にも大きな損失をもたらしている。したがって、慢性痛からの解放は、国家レベルでの命題なのである。

 クリントン元大統領が、2001年からの10年間における医学の主テーマを、『Decade of Pain Control and Research(痛みの10年)』と宣言したのは、こうした米国の現実に裏付けられていたのだ。

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森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

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