メディカルトリビューン
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やる気でアレルギーが改善?
「病は気から」と言うが、この言葉はどれほど本質を捉えているのか。山梨大学免疫学講座の中嶋正太郎氏、教授の中尾篤人氏らは、前向きな感情をつかさどる脳内ドパミン報酬系を活性化させると、アレルギー反応が抑制されることをマウスの実験で示し、Allergy( 2020年6月13日オンライン版 )に発表した。
3つの方法でマウスのドパミン報酬系を活性化
花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、精神的なストレスによっても症状が悪化する。一方で、アレルギー疾患治療薬の治験において、患者の前向きな感情が薬効とは無関係にプラセボ効果を発揮させ、有効性に関する適正評価が困難になることがある。このように精神的な変化がアレルギー症状に影響を及ぼすことは知られているが、詳しいメカニズムは明らかにされていない。
そこで中嶋氏らは、精神状態の中でも特にプラセボ効果と関係の深い「前向きな感情(やる気)」をつかさどる脳内ドパミン報酬系がアレルギー疾患に及ぼす影響について検討。6週齢の雄マウスを用いて、3つの方法でドパミン報酬系を活性化し、アレルギー反応への影響を解析した。
全ての方法でアレルギー反応が有意に抑制
まず、DREADOと呼ばれる脳操作の最新技術を駆使して、マウスの中脳腹側被蓋野(VTA)を選択的に活性化した後、マウスの皮膚に蕁麻疹反応を惹起。その結果、VTA活性化マウスでは、非活性化の対照マウスに比べて、蕁麻疹様反応が有意に抑制された(P<0.05、Studentのt検定)。
次に、マウスの飼育時に飲水ボトルに人口甘味料のサッカリンを混ぜ、自発的にVTAを活性化させた。皮膚に蕁麻疹反応を惹起したところ、サッカリンによってVTAが活性化したマウスでは、水のみを飲ませた対照マウスに比べて、蕁麻疹様反応が有意に抑制された(P<0.05、Studentのt検定)。
最後に、マウスにドパミンの前駆体であるL-ドパを投与し、脳内のドパミン量を増加させ、皮膚に蕁麻疹反応を惹起した。すると、非投与の対照マウスに比べてL-ドパ投与マウスでは、蕁麻疹様反応が有意に抑制されていた(P<0.05、Studentのt検定)。
以上から、3つの方法のいずれにおいても、脳内ドパミン報酬系の活性化を介しアレルギー反応を抑えられることが示された。
中嶋氏らは、今回の結果について「ポジティブな精神状態を生み出す特定の脳内回路と、アレルギーを起こす免疫の仕組みが密接に関係していること直接的に示した世界で初めての知見である」と説明。「アレルギー疾患の治療は現在、抗アレルギー薬や抗炎症薬などの薬物治療と生活習慣の改善が主体だが、適切な診療や症状のコントロールには、患者に前向きな気持ちを維持させることも重要である」と付言している。(比企野綾子)
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