中川恵一「がんの話をしよう」
医療・健康・介護のコラム
がん患者の25%「新型コロナが治療に影響」 免疫力が下がる治療、下がらない治療
抗がん剤治療が死亡リスクに
がん治療の延期や中止の理由には、治療が安全に行えないことのほか、治療による感染リスクの上昇があげられます。実際、治療中(直後)のがん患者が新型コロナに感染すると、致死率が高くなるというデータも出ています。
肺がんなど、胸部のがんの治療を受け、新型コロナに感染した400人を対象に分析した結果、感染を診断された日から過去3か月以内に抗がん剤治療を受けていた患者では、新型コロナウイルスによる死亡リスクが有意に高くなることが分かりました。
400人中、死亡したのは141人。このうち、がんで亡くなったのは1割程度にすぎなかったのに対し、約8割の人が新型コロナ感染症で亡くなっていました。死亡者のうち、化学療法を受けていたのは約半数の47%でしたが、放射線治療を受けていたのは9%に過ぎませんでした。
免疫力が下がりにくい放射線治療
岡江久美子さんの死後、所属事務所は「昨年末に初期の乳がん手術をし、1月末から2月半ばまで放射線治療を行い免疫力が低下していたのが重症化した原因かと思われます」というコメントを出しました。しかし、一般的に言って、初期の乳がんの手術後の放射線治療で免疫力が大きく下がることはまずありません。免疫を担う白血球などは骨髄で作られますが、乳がんの放射線治療で照射される骨髄はわずかであり、免疫力の低下は考えにくいと言えます。
もちろん、予防的に広い範囲で放射線を照射した結果、骨髄の働きが悪くなり、白血球が減って、免疫力が一時的に低下するケースがないわけではありません。とくに、放射線と抗がん剤を同時に組み合わせる化学放射線療法では、その影響も無視できません。ただ、多くの放射線治療は通院ですみ、免疫力の低下もほとんどみられません。その意味では、コロナ禍の今、放射線治療は安心して受けられるがん治療の選択肢として評価されるべきだと思います。(中川恵一 放射線科医)
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