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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ規制緩和 急いては事をし損じる

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カギは、どういう状況なら発動するか

 感染症の流行を止める一番手っ取り早い方法は、感染経路の遮断です。ロックダウンの要諦は、対象地域の内外での人の出入りと、対象地域内での外出を規制することです。この二つの条件を満たせば感染経路は激減しますから、感染症も減る。シンプルな理屈です。そして事実です。だから、「ロックダウンは感染を減らさない」という主張は「デマ」と判断して構いません。

 が、ロックダウンはおいそれと取れる手段ではありません。その副作用が大きすぎるためです。経済活動は滞り、教育活動は滞り、多くのアクティビティーがキャンセル、延期されます。失うものが大きすぎるため、「ロックダウン以外に感染を抑えられないとき」以外は、取らないほうがよい、かなり大きな選択です。ウルトラダイナマイトみたいなものです(ぼくは戦隊モノや仮面ライダーよりもウルトラマンが少年期の基盤を作っていたことが自粛中のYouTube視聴で判明しました。どうでもいいことですが)。

 ですから、ロックダウンは効果あるかないか、はすでに決着した議論です。問題は「どういうときにロックダウンが選択されるか」であり、「どうすればロックダウンを回避したまま感染リスクを最小限にできるか(Mitigation)」であります。

 英国ではビーチに50万もの人が詰めかけ、リバプールでは30年ぶりのサッカー・プレミアリーグ優勝で市民がアンフィールドに集合し(気持ちは分かる、、、分かる、けど)、ゆるゆるムードに拍車がかかり、ジョンソン首相が警告を発していますhttps://www.bbc.com/news/uk-53190209

 アメリカでは再選を目指すトランプ大統領が、テキサスやアリゾナで経済活動をむりやり再開させ、感染者が激増していますhttps://www.nbcnews.com/news/us-news/coronavirus-hospitalizations-surge-arizona-texas-n1231945。このままでは世界のあちこちで「第2波」が発生してしまいます。

適切な規制こそ経済も活性化させる

 日本が2、3月に成功したクラスター追跡は、街のロックダウンを回避したままで新型コロナ対策を可能にする、非常に効率の良い対応策です。しかし、患者が増えすぎると「後ろから追っかける」クラスター追跡は効果を失い、「先回りする」ロックダウン(あるいはその亜型)を余儀なくされます。クラスターのレベルで感染を抑え込むには、ある程度の市民の活動自粛が欠かせません。そのことは欧米のあちこちのデータが示しているとおりです。

 急いては事をし損じる。経済活動を再開させるのは悪くない。が、経済活動を急激に低下させるロックダウンを余儀なくされる事態はなんとしても避けたい。このジレンマに応えるには、「徐々にやる」「慌ててやらない」ことが大事です。

 やはり危惧しているのは東京です。毎日感染者が複数見つかっていますが、現段階では比較的クラスター捕捉の範囲内なので、それほど大きな問題にはなっていません。が、このまま街の活動がなし崩し的に、ズルズルと、急速に拡大していけば、その感染拡大は「後ろから追いつけない」レベルにまで拡大していきます。

 3月に起きたことを思い出しましょう。同じ間違いは繰り返さない。リスクマネジメントの要諦なのです。そして、同じ間違いを繰り返さなければ、第2波対策は「第1波」よりもずっとましにできるはずですし、場合によっては第2波そのものも起きないままにすることすら不可能ではありません。そうすれば、経済活動もより円滑に行うことができます。

 多くの方が誤解していますが、新型コロナ対策は経済活動の障壁ではありません。逆です。健全な新型コロナ対策こそが、健全な経済活動復活のための条件なのです。そのことは内外のデータが如実に示しているのです。(岩田健太郎 感染症内科医)

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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2件 のコメント

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新型コロナ下での不要不急のイベント

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

医療と政治経済の側面から言って、開催はとりあえずOKだと思います。 とりあえずが大事で、今後の状況確認やより良いアイデアも大事です。 政府や市町...

医療と政治経済の側面から言って、開催はとりあえずOKだと思います。
とりあえずが大事で、今後の状況確認やより良いアイデアも大事です。
政府や市町村の強制力のある指示があれば中止は当然ですし、これまでよりも弱い参加強制力や多様な参加形態であることが望ましいので、柔軟な開催プランが必要とされると思います。

OKである論拠は新型コロナウイルスの特性と現在における科学と政治の兼ね合いです。
今の時点で新型コロナウイルスは感染そのものを完全には防ぎようがなく、病態解明の時間稼ぎと救急ひっ迫を回避の為に感染速度を遅らせているだけです。
そして、ワクチンや特効薬は今の時点で完全な見通しはありません。

1-2年延期してもコロナの勢いが収まっているとは限らず、1-2年経ってご高齢や各種因子をお持ちの方が別の感染経路や別の理由で亡くなる可能性があります。
その人たちの気持ちやそれ以外の人も含めた気持ちや慣習の持つ経済効果は無視できないものがあります。

ここで、場合分けが発生するわけですが、今後、緊急事態宣言も経済活動との綱引きとなるでしょう。
他の案件でもリスクがある生活を送る状況にあれば、あるイベントに強く参加の意思のある人だけでこじんまりやる事がコアにあって、それ以上は流れ次第でいいのではないかと思います。

今の時点では、既往歴のある患者と一部の患者に重症化を起こす呼吸器を中心とした発熱疾患という認識なので、その認識や診断治療戦略が大きく覆らない限り、経済活動との綱引きで徐々に制限が解かれる中でやっていけばいいと思います。

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感染発生源講評

norinori

ここにきて、感染者数が毎日多く発表されています。 それも特定の箇所で起きているようです。 例え方がどうかと思いますが、食中毒などの場合には発生源...

ここにきて、感染者数が毎日多く発表されています。
それも特定の箇所で起きているようです。
例え方がどうかと思いますが、食中毒などの場合には発生源が発表され、一定期間営業停止になります。新型コロナウイルスの場合は、発生源の許可がないと発表できないというのは、おかしい気がします。発表されるようになれば、発生源のところでも発生しないように従業員たちの管理を行い、発生しないように注意するのではないでしょうか。

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