田村専門委員の「まるごと医療」
医療・健康・介護のコラム
喫煙と新型コロナウイルスをテーマに研究会
「コロナうつ」による再喫煙の懸念
日本禁煙科学会(理事長・高橋裕子京都大学特任教授)が主催する禁煙治療研究会(会長・種本和雄川崎医科大学教授)が6月28日、開かれた。禁煙支援にかかわる人に向けて2012年から毎年開かれているものだが、今年は新型コロナウイルスの流行の影響のためオンラインで一般にも公開して開催し、260人余りが参加した。特別企画として「喫煙と新型コロナウイルス」をテーマに3人の演者が講演し、第2波、第3波の流行も予想されるなかで、改めて禁煙の大切さを確認した。
まず、長谷川浩二・国立病院機構京都医療センター部長が、「新型コロナウイルス感染症における心血管合併症と禁煙推進の重要性」をテーマに講演。新型コロナウイルスは、肺炎はもちろん、血管の内皮細胞で炎症を起こして血栓症を招き、肺梗塞などの原因になることも分かってきたと説明した。
喫煙との関係では、国内の研究論文や症例報告では患者の喫煙歴についての記載がないものも多く、多忙な臨床現場においては喫煙歴の聞き取りが容易ではない現状があるとした。そのうえで、海外からの報告によると、喫煙が新型コロナウイルス感染症の重症化を招くリスクになるとの様々な研究報告があることや、WHO(世界保健機関)が5月に喫煙が重症化に関与しているとの声明を出したことなどを紹介した。
長谷川氏はまた、新型コロナウイルスへの不安や自粛生活の影響などによって懸念される「コロナうつ」が、いったんたばこをやめた人が再喫煙する引き金になりかねない点を指摘した。再喫煙によってたばこの害による病気が増えれば、新型コロナによる直接の被害に加えた超過死亡を招くことが懸念される。コロナ下で、再喫煙者が増えることによる喫煙率の上昇を防ぐことの大切さを強調した。
COPDも重症化リスクの可能性
続いて、舘野博喜・さいたま市立病院内科(呼吸器)科長が、「COPD(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)・タバコと新型コロナ」の関連性について、これまで発表された研究報告を紹介した。COPDは喫煙習慣が主な原因で、肺で酸素と二酸化炭素の交換が行われる肺胞が傷んでしまう肺気腫などの病気のことで、別名「たばこ病」とも呼ばれる。研究報告によると、COPD患者の症例数の報告は少なく、新型コロナウイルス感染症にかかりやすいとは言えないものの、分析の結果から感染すると重症化しやすいと考えられると述べた。
感染者の既往症としての症例数が少ないことについて、COPDそのものの認知度が高くないことや、診断・治療を受けていない患者が多い可能性についても言及。COPDについての啓発が重要であることを指摘した。
シェアード・ディシジョン・メイキングを
中山健夫・京都大学教授(健康情報学)は、「健康情報学から見た新型コロナウイルス感染症」のテーマで講演。不確かな情報しかないなかで、どのように対処法を決めていくのが良いのかについて、解説した。
新型コロナウイルスについては不明な点が多く、エビデンスが積み重ねられている最中であること、普段とは異なる状況の下では、いつもなら信じない情報もつい信じてしまいがちになることなどを説明した。
そのうえで、どうしたらよいか分からない状況において、何かを決めなければならない際には、「シェアード・ディシジョン・メイキング」が重要であることを説明。一人だけで物事を決めるのではなく、多くの人が相談、協力し、知恵や経験を持ち寄りながら、総合的な判断のもとで決めていくことが大切であるとした。
第2波、第3波へ 「まだ間に合う」
新型コロナウイルスの感染拡大で、医療機関の禁煙外来も、十分な検査ができなかったり診療を一時中止したりするなどの影響を受けたという。禁煙外来を受診する患者には、禁煙して良かったという声がある一方で、新型コロナウイルスへの不安も聞かれる。第2波、第3波の流行に向けて、これから禁煙しようと取り組んでいる人には「まだ間に合うから」と声がけしているという。
高橋理事長は今回の特別企画について「新型コロナウイルスの第1波が終息に向かってほっと一息ついているこの時期に、医療関係者も、一般の方も、新型コロナとの向き合い方について改めて考える機会にしたいと考えた」と話す。そのうえで、「喫煙が新型コロナウイルス感染症の重症化に関係していることはほぼ確実だとみられており、予防のためにはぜひ禁煙にチャレンジしていただきたい」と禁煙の重要性を強調した。(田村良彦 読売新聞専門委員)
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