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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

18トリソミーのわが子「命が短いなら早く自宅へ」…新型コロナで面会制限された両親をどう支えるか

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 生後14日目の女児。40週1日、3000グラム台で生まれた。妊娠期には胎児異常を指摘されていなかったが、出生直後より呼吸障害が見られ、NICU(新生児集中治療室)に入院。心エコーで先天性心疾患が見つかった。専門的な治療を受けるため、生まれた病院から当院のNICUに搬送された。両親とも30代で、2歳の兄がいる。

 先天性心疾患、耳介低位(耳介が付いている位置が低い)、関節 拘縮(こうしゅく) (動かしにくい状態)などの多奇形があり、精査したところ、染色体異常の18トリソミーと確定診断された。18トリソミーでは、生まれつき心臓や消化管などの複数の病気や、重い発達の遅れを伴うため、生命予後は厳しいとされる。女児は、全身状態を安定させるために人工呼吸器(SiPAP:鼻にマスクをつけて呼吸を補助するタイプ)や点滴が必要な状況にあった。

 どのくらいの期間、生きられるかはわからないが、在宅医療・ケアには移行できるのではないかと考えられた。今後、肺動脈を狭くして肺血流量を減らす心臓手術( 姑息(こそく) 術:根治術に比べて、体へのダメージが少ない術式)が予定されている。この手術を受けることによるリスクは、18トリソミーではない子どもよりは高いが、それにより呼吸障害の改善が期待され、生活の質が向上し、生命予後が長くなる可能性がある。

 生まれた後、父親は18トリソミーについて調べるようになり、仕事帰りにはNICUにやってきて声をかけ、帰る時に女児が起きていたら「帰りにくい……」といった親子らしい関わりが自然と芽生えている。一方、母親は、まだ小さな長男の面倒を見ているせいか、言葉数が少なく不安な様子で、女児については、「こんな状態でいるのはかわいそうだ」と感じているようだった。

 心臓の手術を行うかどうかについての話し合いでは、父親は、「子どもにしてあげられることは全てしてあげたい」「命が短いのであれば、早く退院して一緒に生活したい」「(呼吸器をつけているのが)かわいそうだから、外してあげたい」と話した。1年生存率が10%程度であることも伝えられた。

 新型コロナウイルス感染症の 蔓延(まんえん) により、免疫力の弱い新生児が入院しているNICUでは、患者が急性期を脱した場合は「親1人の面会を週1回とする」という暫定的なルールができた。女児は、治療によって、呼吸、体温、血圧などの「バイタルサイン」が安定し、全身状態も大きく変わることなく過ごせていたので、「親の面会制限をするべき時期にあるのではないか」という意見が、スタッフから出始めた。

コロナ対策必要だが、今、この時間が大切な親子

 この事例を語ってくれたのは、小児科やNICUでの経験が豊かな看護師でした。「新型コロナが終息に向かうまで、全ての人が協力しなければいけないことは理解しているけれど、今後、家族との楽しい時間をどの程度過ごせるかわからない子どもには、今が、この時間がとても大切。また、退院後の成長・発達のためには、親の子どもに対する理解が不可欠なのに、面会を制限することで、重要な親子の愛着形成が妨げられるのではないか」と思ったそうです。

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大准教授(生命倫理分野)、同大公衆衛生大学院兼任准教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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