アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直
医療・健康・介護のコラム
多目的トイレ前の惨劇…父は手で受け、弟は走った
誰でも使えるけれど
出てきた母子に、お父さんが怒っているので申し訳なかった。多目的トイレでなければ用を足せないわけでもなさそうだったが、小さい子がいて女子トイレの行列に並ぶのがつらかったのだろう。多目的トイレは、必要があれば誰でも使える。ただ、必要とする度合いは人によって様々で、「使えると助かる」人から、「ここでしかできない」人までいる。洋介はその中間あたりだと思っていて、場所としては必要だが、特別な装備(手すりやオストメイト※用の設備など)を使うことはない。僕ら自身もそうだが、「自分たちよりもっと多目的トイレを必要としている人が次にくるかもしれない」と意識して、できるだけ時間をかけないですませたい。障害者用の駐車スペースにも言えるが、「いつも空いていて意味がない」のではなく、使う人にとっては「空いていないと意味がない」のだ。
※人工肛門保有者・人工 膀胱 保有者
かつてはひどかったトイレ事情
ちょうどその頃、多目的トイレをテーマに取材をしたことがあった。大手メーカーの展示場には最新の素晴らしい設備が並んでいた。しかし、街中にはまだまだ普及していなかったし、従来からあった障害者用トイレは、目を疑うような劣悪な設備であることも少なくなかった。
例えば、扉は手動の引き戸なのだが、ひどく傾いているために開けてもすぐ閉じてしまう。素早く動ける人でないと入れないし、車いすではまず無理だ。手すりの上をトイレットペーパー置き場にしていたり、自動ドアの内側の開閉ボタン前に備品が置かれていて、車いすの位置からでは手が届かなかったり(入れても、出られなくなる)。
「不適切な使い方」は今も? 大事なのは想像力
使い方にも問題が多かった。福岡の球場近くに造られた商業施設には、充実した多目的トイレが設置されていたが、その洗面台には、つけまつ毛がいくつも落ちていた。高校生が私服に着替えたり、お化粧をしたりするのだそうだ。当然ながら、長時間占拠することになる。
若者のマナーが特に悪いわけでもない。いつも、会社でエレベーターの「閉」ボタンを押して外に降りる習慣があるサラリーマン。次に乗る人がいる階へエレベーターが早く着くように、という気配りなのだが、多目的トイレでも同じことをしてしまう「うっかりさん」もいる。その後どうなるかは、想像できるだろう。そう、大事なのはいつでも「想像力」なのだ。
ただし、それも一昔前の話。今の多目的トイレは設備もマナーも進歩してきているに違いない。と思っていたら、最近は、「不適切な使い方」のせいで警備員が立ったトイレもあるようで……。(梅崎正直 ヨミドクター編集長)
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