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台湾で導入 最期の「指示書」…治療の希望 公的に保証

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 高齢化が進むなか、延命治療のあり方を巡る議論が続いている。最期を迎える時にどのような医療やケアを希望するのか。台湾では、その内容を事前に文書化し、法的に保護する独自の制度を昨年、導入している。(鈴木敦秋)

台湾で導入 最期の「指示書」…治療の希望公的に保証

  患者自主権利法

 台湾は2018年、高齢者の人口が全体の14%を超える高齢社会に入った。高齢化のスピードは日本より速く、40年代後半には40%超となる見込みだ。

 昨年1月、本人が納得できる死(善終)を迎える権利の保護をうたった「患者自主権利法」が施行された。延命に関する自分の希望を記した「事前指示書」を作成し、どのような治療を受けたいかを事前に決めておく。作成には、本人が、親族や医療機関と話し合うACP(アドバンス・ケア・プランニング)が前提となる。

 指定医療機関で2親等以内の親族が参加し、議論する。医療機関に1万円前後(日本円換算)を支払い、ソーシャルワーカー、医師、看護師で構成されるチームのカウンセリングを受ける。

 自分が最期をどのように迎えたいかといったことなどについて意見を交わす。本人や家族らが受けられるケアについても説明を受ける。事前指示書の内容が実施されるのは、「末期患者」「植物状態」など五つのケースだ。

 ACPの話し合いは1回で、時間は60~90分。終わったら事前指示書を作成し、本人と医療機関がそれぞれ押印する。ほかに、親族らの証人2人が必要になる。

  日本は「人生会議」

 指示書の内容は、台湾に住む人が全員持つ健康保険カードに登録される。カードには、過去3年間の処方箋、血液やコンピューター断層撮影法(CT)などの検査記録、手術歴、支払った医療費などが記録されている。指示書は、こうした医療情報と同じように、本人が簡単にアクセスできる仕組みになっている。

 指示書の内容は原則として、口頭で変更することはできない。修正する場合は新たに文書を作り直す必要がある。指示書に沿って延命治療の中止を行う際は、専門医2人とホスピスチームが2回以上、患者の状態が実施条件に合致するかどうかを確認することになっている。

 台湾の統計によると、今年2月時点で指示書を作成した人は約1万2000人(人口約2400万人)。健康な状態で登録した人が大半とみられる。当局は、普及のための運動を展開している。

 日本では、ACPに「人生会議」の愛称がつけられている。人生の最終段階に受ける医療やケアについて、家族や医療者らと話し合いを繰り返すことが主眼だ。指示書を作り、その内容が法的に担保されている台湾とは大きく異なる。

 台湾の医療制度に詳しい大谷大学真宗総合研究所研究員(生命倫理学)の 鍾宜錚ジョンイジェン さん(37)は、患者自主権利法について、「最期の迎え方を自分で決めたいと思っている人の意思を、公的に保証するものだ。情報技術(IT)社会に合わせた運用にした点が台湾の特徴」と説明する。

 台湾の取り組みは、日本で延命治療のあり方を考えていく上で参考になりそうだ。

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