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訪問診療にできること~最期まで人生を楽しく生き切る~

介護・シニア

介護者が新型コロナにかかったらどうする?

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写真 幡野広志

写真 幡野広志

 急に熱がでた! 新型コロナだったらどうしよう? こんな心配をしている人も多いと思います。しかし、周りで感染拡大が起こっている!という特殊な状況でない限りは、こんな心配をする必要はありません。あなたの熱は、おそらくただの風邪かインフルエンザ、高齢者であれば 誤嚥(ごえん) 性肺炎か尿路感染か、あるいは体温がこもっているだけなのか、そのいずれかである可能性の方が圧倒的に高いはずです。

 そして気をつけなければならないのは、新型コロナを恐れて、きちんと診察を受けることができず、新型コロナ以外の病気が見逃されてしまうことです。例えば、もしその熱が誤嚥性肺炎だったとしたら、経過観察しているだけでは重症化して死んでしまいます。まずはかかりつけ医に相談をして、熱の原因が何なのかをきちんと診断してもらい、必要に応じて適切な治療を受けましょう。

首都圏で5000人を訪問診療、新型コロナ感染ゼロ

 私が仕事をしている医療法人社団悠翔会では、首都圏で約5000人の在宅患者さんに在宅医療を通じて在宅療養のお手伝いをしています。訪問診療は通院が困難な方が対象です。従って、この5000人の方は要介護の高齢者か、がんや難病などの基礎疾患を持っている方々です。体力も抵抗力も低下しており、熱が出ることもよくあります。

 2月下旬から6月上旬にかけて、悠翔会では、患者さんやご家族から330件の発熱に関するご相談をお受けしました。その中で新型コロナ感染症の方は一人もいらっしゃいませんでした。首都圏は新型コロナの感染拡大で非常事態宣言が最初に出された地域です。そこでも4か月間で感染者ゼロだったのです。

 もともと在宅医療を受けている人は、自分では外出することがありません。感染するとすれば、誰かが外から持ち込む、ということになります。介護をしているご家族も、高齢者施設もその点には十分に留意をしてケアをしていたので、結果として自宅や施設での新規感染者はいませんでした。

まずはかかりつけ医

 もちろん、その熱が新型コロナ感染によるものの可能性を完全に否定はできません。しかし、地域の感染拡大状況、その人の他の人との接触歴、そして普段の体調などを総合的に勘案すれば、どの程度、新型コロナが疑われるのかはある程度合理的に判断できます。

 医師はその「疑わしさ」に応じて、感染防御具を装着し、診察を行います。新型コロナの感染が拡大し始めた時、病院でなければ診られないと考え、病院の受診を指示するかかりつけ医が少なくありませんでした。しかし、発熱の多くは新型コロナ以外の病気によるものですし、感染防御に必要な資材も充足しつつあります。今後は「まずは病院」ではなく、「まずはかかりつけ医」に相談をするようにしたほうが、より早く、より正しい診断に行きつくはずです。

介護者が新型コロナに感染したらどうする?

 気をつけていても交通事故に遭うことがあるように、どんなに注意をしていても、新型コロナに感染してしまうことがあるかもしれません。「絶対にかからない!」という気概も大切ですが、感染したらどうするか、ということについても考えておく、備えておくことが重要だと思います。

■ご家族が感染した場合

 もし、介護をしているご家族が感染した場合、どうすればいいでしょうか? 要介護の高齢者と一緒に暮らす、あるいは自宅で介護を継続すれば、その人に感染させてしまうかもしれません。従って、ご家族を隔離することを考えなければなりません。

 選択肢としては二つあります。一つは、ご家族が自宅を離れて病院や宿泊施設で療養し、高齢者を引き続き自宅でケアするという方法。もう一つは、ご家族は自宅で療養を継続し、高齢者を誰か・どこかに一時的にお預けしてケアをしてもらうという方法。

 いずれにしても、自分以外の誰かがケアをする、ということになりますので、そのケアをスムーズに引き継げるようにしておく必要があります。感染してしまうと、他の人と接触することが難しくなるので、口頭での申し送りは難しいと思います。あらかじめ「介護引き継ぎノート」を作り、ケアマネジャーや主治医の連絡先、現在の介護体制、治療内容、ケアの方向性や療養方針(自宅で最期まで過ごしたいのか、何かあれば病院に行くのか)などについて記載をしておくとよいと思います。

 また、ご自分でケアができなくなったとき、他の家族や親戚にケアを頼めるのか、あるいは一時的に介護施設や病院に入所・入院してもらうのか、これについても、あらかじめ主治医やケアマネジャーと相談しておくとよいと思います。

 自治体によっては「介護避難施設」を用意してくれているところもありますが、多くの場合には手探りです。ご家族が感染した場合には、同居者は自動的に「濃厚接触者」になりますので、いつも使っているデイサービスやショートステイでは受け入れてもらえなくなる可能性もあります。それぞれの自治体の体制や、地域での受け皿の有無などを確認しておくとよいと思います。

要介護高齢者が感染した時に考えておくこと

■ご本人が感染した場合

 高齢者が感染した場合、どうすればいいでしょうか? 元気で自立した高齢者であれば、保健所の指示に従って、入院や宿泊施設での隔離生活も問題なく送れるかもしれません。しかし、要介護高齢者の場合にはそう簡単ではありません。入院すれば、入院生活のストレスや行動制限によって身体機能・認知機能が低下してしまう危険があります。宿泊施設を選択したとしても誰かが介護をしなければなりません。もしかすると、自宅で療養生活を継続する、という選択肢がもっともしっくりくる、という人も少なくないかもしれません。

 どの人にとって、どの選択がもっとも妥当なのか。私たちは状況判断に悩んだときに、次の四つの要素について整理して、本人にとって納得のできる選択を考えるようにしています。

治療ができるのかできないのか

(1)医学的適応

 その病気は治療ができるのか、できないのかを考えます。治療ができる、治癒する病気であれば入院すべきかもしれませんし、入院しても治療法がない、改善しないのであれば、入院する理由がないかもしれません。新型コロナの場合には、入院したからといって救命率が大幅に上がるというわけではなさそうです。80代以上の高齢者の死亡率は約15%とかなり高く、重症化率は約20%と言われていますので、高齢者の場合には重症化してしまうと回復はかなり難しいということがわかります。治る人は入院しなくても自然に治るし、治らない人は入院しても治らない可能性が高いのです。また、人工呼吸器などの集中治療を希望しない人もいます。その人が、もし重症化したらそのときは仕方がない。積極的な治療は希望しない。そう覚悟ができているのであれば、入院しないで自宅で生活を継続する、という選択はあってもいいかもしれません。

治療で本人が幸せになれるのか

(2)QOL(生活の質)

 その治療をすることで、本人が幸せになれるのかを考えます。確かに病気が治れば幸せになれる可能性は高いですが、要介護高齢者の場合、治るか治らないかは、入院するかしないか(積極的治療をするかしないか)とはあまり関連がないかもしれません。

 一方で、病院で入院治療中は、家族とは面会できません。病院で亡くなれば、対面できるのはお骨になってからかもしれません。入院に送り出した時が最後の別れになってしまうかもしれないのです。だとすれば、もしたとえ治らなくても、大切な家族と最期の大切な時間を一緒に過ごしたい。そういう考え方があってもいいかもしれません。

本人の希望を聞いておく

(3)本人の希望

 本人はどのような生活や選択を希望しているのかを考えます。通常は最優先される項目ですが、新型コロナウイルスは指定感染症です。結核と同じように、どこで療養するかは保健所の指示に従わなければなりません(原則として入院することになっています)。ただ、要介護高齢者の場合には入院が必ずしも安全な選択肢ではありません。保健所や行政と相談しながら、病院以外の選択肢が許されることもあると思います。

 新型コロナは重症化すると、あっという間に状態が悪化していきます。本人が希望を伝えたくても伝えられないという状況になるかもしれません。あらかじめ話をしておくことが大切だと思います。

周囲の状況によって制約がある

(4)周囲の状況

 家族の考えや自宅の介護体制、地域の医療や介護の提供体制などを考えます。本人が自宅でいたいと思っても、保健所や行政機関がそれを許してくれないかもしれません。また、家族が責任をもって介護ができない、あるいは主治医または自宅で介護サービスを提供する専門職たちが難しいと判断するかもしれません。

 一方、本人が入院をしたいと思っても、感染拡大状況によっては、地域の感染病床がいっぱいで入院ができないこともあるかもしれません。状況が変化すれば、対応方針も変化せざるを得ないことがある、ということは理解しておく必要があると思います。

いまこそ人生会議を

 人によって優先順位は違います。人生観や価値観も違います。そして家族との関係性も、主治医やケアマネジャーとの関係性も、自宅での介護支援体制も違います。だから、模範解答があったとしても、それを意識する必要は全くありません。自分たちで納得のいく選択をすればいいと思います。

 ただ、自分たちだけで決めろ、といわれても難しいと思います。ぜひ、ここでも主治医(かかりつけ医)とよく相談してみてください。自分が感染したらどうなるのか、もし重症化したら、そのときにどのような選択肢があるのか。そしてもし感染しても自宅で過ごしたいという選択をしたときに、主治医はしっかりと、場合によっては最期まで、必要であれば緩和ケアも含め支援してくれるのか。確認しておいてください。

 すぐに結論が出ることはないと思いますが、家族や主治医を含め話し合いを重ねていけば、その中でおのずとみんなが納得(あるいは妥協)できる着地点が見つかるはずです。このプロセスのことを人生会議(ACP:アドバンスケアプランニング)と言います。

 新型コロナウイルス感染症は、いつだれに襲いかかってくるかわかりません。だからこそ、感染が収束している今、少し腰を据えてご家族で対話の時間を持ってみてはいかがでしょうか。

新型コロナウイルスは日常のリスクの一つ

 特別に身構える必要はないと思います。新型コロナウイルスは、私たちにとって日常のリスクの一つに過ぎません。そして、そのリスクは交通事故死よりも小さいのです。

 もちろん、家族や社会を守るために、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことはとても大切です。しかし、「絶対に感染したくない!」と思うと、疑心暗鬼になってしまいます。目の前の人がみんな感染者に見えるし、マスクをしていない人が敵に見えます。あそこにもここにもウイルスが付着しているかもしれないと思うと、素手でモノを触ることができなくなります。

 しかし、感染の確率をゼロにすることはできません。ウイルスは目に見えませんし、無症状の潜伏期間中でも感染力があります。そして状況によっては空気感染が発生する可能性もあります。そうなるとマスクをしていても防ぎ切ることはできません。

うつされるのは防げないが、うつすのは防げる

 でも、安心してください。感染拡大から社会を守るために、もっと簡単で確実な方法があります。それは「他の人には絶対に感染させない!」と思うことです。「うつされるのを防ぐ」ことはできませんが、「うつすのを防ぐ」ことは実は難しくないのです。

 ウイルス感染は自分の体液が相手の目鼻口から入ることで起こります。大きな声で会話をしたり、せきをしたりすると 飛沫(ひまつ) が飛ぶかもしれません。だから人と会って話をするときはマスクをちゃんと着用します。せきでマスクが間に合わないときにはせきエチケットを確実にします。そして手に自分の体液(唾液や鼻水など)が手についたら、何かを触るまえに手をきちんと洗う、または手指の消毒をします。これを確実にできれば、仮にあなたが新型コロナに感染していたとしても、他の人に感染させることはないはずです。

一番の症状は不安と恐怖

 私は新型コロナウイルスの一番の症状は、「不安と恐怖」だと思います。そして、これは感染していなくても起こります。さらに、この症状は、ウイルスとは関係なく、社会全体に伝染していきます。PCR検査をどれだけ増やしても、抗原検査・抗体検査ができるようになっても、たぶんこの症状は治療できません。

 この困った症状の唯一の治療法は、「思いやり」だと思います。みんなが「自分の身を守る」のではなく「相手の身を守る」。みんながそう思って日常生活を送れば、一人ひとりがそこまで神経質にならなくても、安全な社会生活が継続できるはずです。(佐々木淳 医師)

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佐々木淳(ささき・じゅん)

 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長。1973年生まれ。筑波大医学専門学群卒。三井記念病院内科、消化器内科で勤務。井口病院(東京・足立区)副院長、金町中央病院(同・葛飾区)透析センター長を経て2006年MRCビルクリニック(在宅療養支援診療所)設立。2008年、団体名を悠翔会に改称。首都圏12か所で在宅療養支援診療所を運営する。

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