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訪問診療にできること~最期まで人生を楽しく生き切る~ 佐々木淳

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ、高齢者や家族はリスクを選択しよう

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写真 幡野広志

写真 幡野広志

 新型コロナウイルスの感染拡大はとりあえず収束しましたが、私たちは当面、新型コロナとともに生活を継続することになります。新型コロナウイルスは、特に基礎疾患のある人、高齢者、喫煙者などで重症化しやすいことがわかっています。特に80代以上の高齢者の死亡率は約15%とかなり高いことが知られています。高齢者の重症化率は約20%と言われていますので、高齢者の場合には重症化してしまうと回復はかなり難しいということがわかります。早めに病院に行けばいいのではないかと考える人もいると思いますが、まだ確実に有効であるといえる治療法が見つかっていません。高齢者の命を守るためには、「感染しない・させない」ということがもっとも重要になるのです。

外出抑制で足腰が弱り、家族も疲弊

 それでは、高齢者、特に基礎疾患のある要介護の高齢者や、ともに暮らすご家族はどのようなことに気を付けて生活をしていけばいいのでしょうか。私の患者さんやご家族にも「絶対に感染しない! させない!」と頑張っている方々がたくさんいます。しかし、感染のリスクを完全にゼロにする、ということはできません。リスクを下げるためには、人との接触を減らしていくしかありません。しかし、私たち人間は一人では生きていくことはできません。また逆に、接触を減らし、室内に閉じこもることによる弊害のほうが大きくなってしまいます。

 今年の3月から5月にかけて日本で新型コロナの感染が拡大した時、デイサービスやリハビリなど、人が集まる場所に行くことにリスクがあると考え、その利用を差し控える高齢者、あるいはサービスの提供を中止するという介護事業所も少なくありませんでした。しかし、その結果、足腰が弱って外出がさらに難しくなる、デイサービスで提供されていた食事や入浴などのサービスが受けられなくなり生活の質が低下する、ご家族が介護を休める時間がなくなり精神的に疲労する、などのケースが増えてきました。介護サービスは、社会全体で介護を支える仕組みです。これが中断されると、本人の生活にも、ご家族の生活にも大きな悪影響が生じます。

施設や病院での面会禁止で、認知機能低下も

 また、老人ホームや病院では家族の面会が禁止されました。それまでご家族と会えることを楽しみにしていた入居者の方々はがっかりして、元気や食欲がなくなる方もいました。認知症の人は家族に見捨てられたと思い込み、ふさぎ込んだり、怒りっぽくなったりする人もいました。社会的なつながりを絶たれることで、高齢者は身体機能や認知機能を低下させてしまうのです。

できるのはリスクを選択すること

 一つのリスクを減らそうとすると、新しいリスクが生まれる。私たちにできるのは「リスクを減らすこと」というよりは、「リスクを選択すること」と考えたほうがよいかもしれません。新型コロナウイルス感染のリスクを減らすために、どこまで、どのような感染対策をするのが合理的なのか、よく考えてみましょう。

 たとえば、外出するときはマスクをする、出先や帰宅時はこまめに手洗いをする、人混みを避ける、人との距離をとる。このような日常生活の工夫には、特にリスクはありません(マスクの場合には、夏の熱中症には注意が必要かもしれません)。

 しかし、外出や人との交流を極端に減らすと、高齢者の中には心身の機能を低下させてしまう人もいます。運動量が低下すると食欲の低下も相まって、全身の筋肉が弱っていきます。体幹の筋力の低下は、転倒や骨折のリスクを高めます。また顔面や喉の筋力が低下すれば、 誤嚥(ごえん) 性肺炎や窒息などのリスクが高まります。

 外出や人との交流そのものが危険なのではありません。危険なのは、あくまで「三密」=密閉・密集・密接です。この三つの条件が重ならなければ、クラスター(集団感染)は発生しにくいということがわかっています。

 外出や交流をするときに三密を避ける、三密になりそうな状況なら、何らかの工夫をして、それを「二密」、あるいは「一密」にできないか、というように考えてみてはいかがでしょうか。

外出や交流を続けながら、どう三密を避けるか

■外出

 たとえば、気晴らしにちょっとお出かけしたい時。近くの公園に散歩に行く。時々誰かとすれ違う程度。そんな感じなら、マスクも必要ありません。スーパーに買い物に行くのであればマスクの準備はしておいたほうがよいですが、極端な混雑を避ければ特に感染の心配はありません。

 ちょっと遠出したい時、一緒に暮らしている家族となら車で出かけてもOKですね。タクシーに乗るときは密な空間ですが、窓を少し開けて、マスクをしてあまり話をしなければ安全ですね。満員電車はちょっと心配ですが、曜日や時間をずらして電車に乗れば、周りの人と少し距離を取ることができます。また、実は満員電車での感染は報告されていません。密接・密集してても、みんながマスクをして、あまり話をしていなければ 飛沫(ひまつ) は飛ばないし、感染は起こらないのです。

■交流

 たとえば、みんなで食事をしたい時。人気の居酒屋の窓のない狭い個室に集まると、そこは密閉・密集・密接の3条件がそろってしまいます。だけど、たとえば一度に集まる仲間を4人までにする、少し広めで混雑していないお店を選ぶ、あるいはオープンカフェで集まる、公園でバーベキューする。ちょっとした工夫で三密は、二密にも一密にも、あるいはゼロ密にもすることができます。心配な人は大皿から取り分けるスタイルの料理は避けたほうがいいかもしれませんが、取り分ける人を決めるなどの工夫をすれば心配は少なくなりますね。

デイサービスの利用も工夫次第

■デイサービスなどの介護施設

 デイサービスそのものが危険なのではなく、デイサービスの空間が「三密」になっていることが危険なのです。ですので、デイサービスを三密にしないように工夫をすれば大丈夫です。たとえば、窓を開けて定期的に換気をする、あるいは中庭などがあるのであれば、表で過ごす時間を増やすという方法もありますね。集まって歌う、などのレクリエーションは避けたほうがよいですが、黙々と取り組める創作活動などは、できる人だけでもマスクをしてもらえれば特に問題なさそうですね。にぎやかに食事を食べたい、というのであれば、縁側に座って、みんなで表を見ながら食べる、という方法もあるかもしれません。

 むしろ送迎の車内の密のほうが心配です。30分かけてデイサービスまで行っている、というような方は、ケアマネジャーさんに相談して、より自宅の近くのデイサービスに変えてもらってもいいかもしれません。

 こんなので本当に大丈夫かな?と思いますよね。これまでの感染拡大状況であれば、これで大丈夫です。

新型コロナの死亡リスクは交通事故より少ない

 よく考えてみてください。新型コロナで亡くなった方は半年で1000人未満。一方、交通事故で亡くなる方は年間約3200人。交通事故で死ぬのが怖くて外出できない、人と会えない、という人はあまりいませんよね。新型コロナウイルスで死ぬリスクというのは、適切な感染防御さえしていれば、交通事故で死ぬリスクよりも少ないということです。

 私たちは日々、さまざまなリスクとともに、リスクを選択しながら生きています。タバコを吸う人もリスクを選択していますし、睡眠不足の人もリスクを選択しています。何を食べるか、どの学校に行くか、どんな仕事を選ぶか、どこで暮らすか、家を買う、株を買う、すべてがリスクの選択です。どんな人生を生きるのか、というのは、つまりどんなリスクを選択するか、ということなのです。

 新型コロナは、他のリスクとは少し違います。感染すれば自分の大切な人に、そして地域や社会全体に迷惑をかけるかもしれません。だから自分だけのことと思わずに、少し慎重に行動すべきだとは思います。しかし、過度に恐れれば、別のリスクを増やします。正しく理解し、正しく恐れる。いま、それができるだけの十分な情報があります。

 テレビのワイドショーや不確実なインターネットの情報に踊らされることなく、正しい情報をしっかりチェックして、正しく「選択」できることが大切だと思います。(佐々木淳 医師)

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佐々木淳(ささき・じゅん)

 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長。1973年生まれ。筑波大医学専門学群卒。三井記念病院内科、消化器内科で勤務。井口病院(東京・足立区)副院長、金町中央病院(同・葛飾区)透析センター長を経て2006年MRCビルクリニック(在宅療養支援診療所)設立。2008年、団体名を悠翔会に改称。首都圏12か所で在宅療養支援診療所を運営する。

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