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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

医療・健康・介護のコラム

がん患者さんが、食の不安を相談できる場所とは

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 新型コロナウイルスの影響で長い自粛生活が続いていましたが、今月からは学校や多くの店舗が再開し、「新しい生活様式」の意識が、社会に定着しつつあります。一部の病院では必要な手術さえ延期になるなど、治療が必要な患者さんにとっては、感染症への不安だけでなく「治療が進まない不安」も大きかったのではないでしょうか。多くのがん患者さんも不安な日々を過ごしていたと思います。

 さて、今回は新型コロナウイルスの陰であまり注目されていなかった、栄養に関する新しい制度についてご紹介したいと思います。2020年の診療報酬改定で、がん化学療法を受ける方への栄養指導に対して、新たな制度が設けられました。

がん化学療法中の味覚障害や食欲低下にどう対応するか

 がん化学療法とは、いわゆる「抗がん剤治療」のことです。多くの患者さんは吐き気や食欲低下などに苦しみます。

 がん細胞は、どんどん栄養を取りこんで増殖するため、健常な細胞に必要な栄養が回らなくなってしまいます。必要な栄養量が取れないと、体は体脂肪や筋肉を分解してエネルギーに変えていきます。食欲低下で食べられないのに、体内での栄養の需要は高まるため、短期間で体重がぐんぐん減少してしまう方もいます。大好物だった料理でさえ、治療に伴う味覚障害のためにおいしく感じられず、食べられないことで、さらに食事摂取量が低下してしまいます。

 そんなとき、どんなものなら少しでも多くの栄養を取れるのか、「食べられない苦痛」を緩和できる料理とはなにかを、患者さんと共に考えるのが病院の管理栄養士です。

 「がんが大きくなるから、栄養は取らない方がいい」という話を聞いたことがありませんか? これは間違った認識で、がんが栄養を使ってしまうからこそ、しっかりと栄養を取らないと、健常な細胞に必要なエネルギーさえ確保できなくなってしまうのです。

 例えば、甘ったるい煮物を受け付けないのであれば、別の調理法ではどうか。のど越しのよいものであれば食べられそうなら、調理の工夫をアドバイスもします。体内ですぐに利用されるオイルや、エネルギー量が豊富な粉あめなどを活用し、少量でも高エネルギーになる調理方法がありますし、たんぱく質や微量栄養素などをぎゅっと詰め込んだ栄養満点のスープを提案することもできます。「ひと口の栄養価値」を少しでも高めるための具体的な方法を患者さんと一緒に考えます。

 外来化学療法を実施しているがん患者さんに対して、症状に合わせて管理栄養士が栄養食事指導を実施した場合、実施していない場合よりも、体重減少率が有意に低いことが明らかになっています。1)

怪しい食事療法を始める前に

 がん患者さんが「食事で気を付けることはありますか」と医師に尋ねても、「バランスよく食べればなんでも食べていいですよ」と言われることがほとんどです。その言葉を信じることができず、「〇〇を食べてがんが消えた」などの根拠に乏しい食事療法を信じてしまうケースが後を絶たないのはなぜだろうと、ずっと疑問に思っていました。

 私は、「なんでも食べていいよ」という言葉が、かえって患者さんを不安にさせてしまうのではないかと思います。

 例えば、効率よく筋肉を鍛えたいとき、「どんな運動でもいいよ」と言われるより、より具体的で効果的な運動を教えてもらいたいと思いませんか? 「なんでもいいよ」は、適当な返事のときにもつい使ってしまう言葉です。一人ひとりの患者さんにとって「バランスが良い」とは具体的にどんな食事なのかは異なります。「なんでもいい」わけがありません。

 「診察室でじっくり話す時間がない」と言う医師もいますが、だからこそチーム医療が必要なのです。「外来栄養指導」の指示を出せば、病院の管理栄養士が食事の不安にしっかりと対応します。

 がん治療を始める際に「これまでの食生活を見直したい」と考えるなら、怪しい食事療法を始める前に、まず今の食事に必要な栄養が足りているのかどうかを確認して、生命維持のために必要な5大栄養素をしっかりと摂取することが大切です。

 外来化学療法中の患者さんで食事の不安がある方は、通院している病院で栄養相談を受けられるかどうか、確認してみてください。

がん病態栄養専門管理栄養士に相談を

 管理栄養士なら、誰でもがんの治療や栄養療法に詳しいとは限りません。私は「認定在宅訪問管理栄養士」の資格を取得し、在宅医療を受ける方に多い病気や障害についての栄養の知識は学んできましたが、抗がん剤の種類やそれに伴う副作用については詳しくありません。しかし、「がんについて専門に学んだ管理栄養士」がいます。それが「がん病態栄養専門管理栄養士」です。

 日本栄養士会は、日本病態栄養学会と共同で、「がん病態栄養専門管理栄養士」の認定制度をスタートさせています。がんの栄養管理・栄養療法に関する実践に即した高度な知識と技術を習得した、栄養に関する専門職です。 2)

 2018年度末現在で、全国で998人の認定者がいるそうですが、これからますます必要とされる分野だと思います。家族をがんで亡くされた方にお話を伺うと、「もっと食事について相談したかった」という声をよく聞きます。それほど、現状では食生活のサポートが不十分なのだと思います。がんになっても、最期のそのときまでその人らしく生ききるために、「食と栄養」は重要です。どこに住んでいても、どんな病気でも、だれもが当たり前に食事の相談ができるよう、私たち管理栄養士ももっと患者さんの声に耳を傾けていかなければならないと思います。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)

参考文献:
  1. 中央社会保険医療協議会総会第435回(令和元年11月22日)資料p66より
  2. 公益社団法人日本栄養士会ホームページより
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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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