大人の健康を考える「大人び」
医療・健康・介護のコラム
「健口」で健康(15)舌掃除 口臭や病気防ぐ
このシリーズでは、予防歯科学が専門の大阪大歯学部教授、天野敦雄さんに聞きます。(聞き手・佐々木栄)
舌を思いっきり前に出して鏡を見てください。奥の方に黄色いコケがついていませんか?
この汚れは「 舌苔 」と呼ばれる細菌の固まりで、口臭の原因にもなります。食べ物や唾液が気管に入る「 誤嚥 」は、高齢者が肺炎を起こす一因ですが、舌苔が多いと細菌が肺に入りやすく、肺炎発症のリスクが高まります。
舌は「細菌のゆりかご」と言われ、外から入ってきた細菌はまず舌の表面を仮のすみかにします。汚れた舌は格好の増殖場所です。
歯学部の学生、J君(21)は大学の講義で、舌の表面には味を感じる「 味蕾 」という受容体があり、舌がきれいだと食べ物の味がよくわかると習いました。早速、歯ブラシで舌を磨き、コーヒーを飲んでみました。「いつもより味に深みとコク、苦みがある」。その効果の大きさに驚いたそうです。
甘味、うま味、苦味、塩味、酸味はすべて舌で感じています。高級料亭などの繊細な味を存分に楽しむコツは、事前に舌を磨き、食べ物は少量を口に入れて、しっかり30回かむことです。
そうすれば、食べ物の味成分がよく唾液に溶け出し、味蕾が刺激され、「これはうまい」と感じられるはずです。日々食べている奥さまの手料理も、舌を磨き、よくかんで食べれば、「これは三つ星!」となるかもしれません。
磨くための「舌ブラシ」は市販されており、歯ブラシでも代用できます。ブラシでかき出すように、やさしく舌の表面を掃除してください。口臭や誤嚥性肺炎の予防、そしてグルメを満喫するためにも、舌掃除をお勧めします。
【略歴】
天野 敦雄(あまの あつお)
大阪大学歯学部教授。高知市出身。1984年、大阪大学歯学部卒業。ニューヨーク州立大学歯学部博士研究員、大阪大学歯学部付属病院講師などを経て、2000年、同大学教授。15年から今年3月まで歯学部長を務めた。専門は予防歯科学。市民向けの講演や執筆も多く、軽妙な語り口・文体が好評を得ている。
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