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医師が教える「女と男、髪と地肌の話」 田中洋平

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産毛まで脱毛してしまうと、肌の老化が……

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 コロナの影響で外出の機会が減っていましたが、いよいよ本格的な夏の到来です。紫外線カットと近赤外線カットも意識しないとですね。

 はるか昔、私たちの先祖は、蒸し暑い夏も顔と手のひら、足の裏以外の全身が長い体毛で覆われていました。進化、もしかしたら退化?の過程で少しずつ体毛が減っていますが、それでも、すっかりなくならないのには意味があるのでしょう。

 今回は、前回に引き続き、人間の「毛髪」についてお話ししたいと思います。

一般の日焼け止めで不十分な理由

 どうしてこんなに蒸し暑いのに、人間の体には、それを増長させる毛髪がたくさんあるのだろう――。そう思う方も多いことでしょう。以前お話したこともあるように、大切な肌を守るためにも毛髪は重要です。

 人間の肌は、加齢による老化に加え、長時間無防備に太陽光にさらされることで、シミやしわ、たるみなどが引き起こされます。猛烈に光老化するのです。

 長野県内にお住まいの20代の女性が、顔の脱毛のためにクリニックにいらっしゃいました。診察すると、すでにツルツルな状態で、新たな脱毛は必要なさそうです。ところが、この患者さんは、「産毛までも脱毛したい」とのご希望でした。

 本来、産毛は様々な外的刺激からお肌を守るために必要なものです。医師としては、脱毛はお勧めしないことをお伝えしましたが、「どうしてもやりたい」と決意は変わらなかったため、産毛も脱毛されました。

 となると、産毛の代わりの防御機構が必要です。私は、ケラチンを使ったスキンケアをお勧めしました。

 「ケラチン」は、人間や動物の毛髪、それに皮膚、爪などに豊富に含まれているたんぱく質です。これが含まれている化粧水などは、肌の水分を保持でき、太陽光のマイナスの作用から防御するにも有効です。さらに肌に一定の硬度を保つため、重力に負けないように組織を維持してくれます。哺乳類が生き延びるために、進化の過程で獲得したケラチンは、たくさんの機能を果たす貴重で効率のよい成分なのです。

 ところが、この患者さんは、ご自身のお好きな日焼け止めを使いたいとのことでした。

 季節が進んで、紫外線、それに近赤外線が活発になったころ、この患者さんが再び外来に見えました。診察すると、肌は真っ赤になり、 水疱(すいほう) ができている部分もありました。

 太陽の光でできた赤みは、炎症によるものです。一刻も早く落ち着かせないと、色素沈着となり、シミとなり、完璧に元に戻すのは非常に困難です。

 世界中で市販されている日焼け止めのほとんどは、紫外線をカットできます。ただし、近赤外線まではブロックできません。近赤外線カットできると (うた) っている製品も、完全なものはありません。皮膚が薄く、日に当たると赤くなりやすい方は、市販の日焼け止めをお使いになっても赤くなったり、腫れたりしてしまいます。

 この患者さんのケースもそうでした。結局、美白の光治療、それにケラチン入りのスキンケアクリームで色素沈着を落ち着かせることができました。

 少し話が遠回りになってしまいましたが、毛髪は人間に備わった生まれつきの防御機能です。光老化予防のために、紫外線カットと近赤外線カットの製品を太陽光線にさらされるたびに使用するのも大変ですからね。

毛髪にはその人の情報が記録されている

 さて、今回も少々脱線してしまいますが、人間の毛髪が持つ潜在的な力について、少しお話します。

 医療の現場では、血液や尿の検査では測定が難しい有害物質の蓄積、必須ミネラルの不足などを、毛髪を使った検査でチェックできます。同時に、食生活、生活習慣など、改善できるものを再点検するために活用もできるのです。

 人間の体には新陳代謝という機能が備わっています。古くなった細胞から、新しい細胞へと、次々に入れ替えているのです。皮膚は毎日どんどん再生されて、古くなった角質、 (あか) は短期間で剥がれ落ちてなくなってしまいます。

 頭髪も同様に、毎日伸びてどんどん毛根から新しく毛髪が生まれるのですが、他の組織に比べてサイクルが長く、年単位で体表にとどまっています。その分、食生活や生活環境、あるいはその人が受けた環境要因など、その人が検出される物質に 曝露(ばくろ) されたことを記録する履歴にもなりますね。

 髪の毛の調査によって、歴史上の著名人が亡くなった原因が推定されることもあります。ナポレオンの毛髪から、ヒ素が検出されたことから、これによる中毒死ではないかという説もあります。テレビの事件もののドラマでも、毛髪のDNAを調べて、犯人を特定することがありますよね。

 もちろん、普段の健康チェックなどで、そのような検査をすることはありませんが、人間の毛髪には、それぐらいの貴重な情報が詰まっているわけです。

 人間の臓器は、すべて役割があるからこそ、そこに存在しています。何度も繰り返してきたように、毛髪も同じです。大切な脳を守ってくれている頭髪もそうですし、有害な紫外線や近赤外線から肌をブロックしてくれている体毛も同じです。

 医師としては、大切な命を守るために、身体のそれぞれの部分がとても大切な役割を果たしていることを気にとめていただければと思います。(田中洋平 形成外科医)

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田中 洋平(たなか・ようへい)

 クリニカタナカ 形成外科・アンティエイジングセンター(長野・松本市)院長 新潟薬科大学客員教授、東京女子医科大学非常勤講師。1975年生まれ。

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