ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
[愛猫と暮らしたい](中)自分が倒れたらどうなる? いっそ睡眠薬で一緒に…
脊椎管 狭窄 症が悪化するにつれ、後藤昌枝さん(仮名)の不安はどんどん大きくなっていきました。「自分が倒れたら、愛猫の祐介君はどうなるのだろう」と思うと、不安のあまり夜も眠れなくなりました。食事ものどを通らなくなりました。後藤さんはモデルのようにスラリとした体形だったのですが、それがやせ細っていってしまいました。
腰の悩みより、愛猫のことが心配
実は、後藤さんの脊椎管狭窄症は、そこまで深刻な状態ではありませんでした。そもそも脊椎管狭窄症は珍しい病気ではありません。全国での推定患者数は240万人とも、580万人とも言われています。仮に240万人だとしても、50人に1人の割合でかかる病気になります。それが高齢者だと10人に1人だと推定されています。大勢の高齢者がかかる病気なのです。
後藤さんを苦しめていたのは、病気そのものではなく、病気に対する不安でした。それも、自分自身のことに対する不安ではありません。祐介君への心配が後藤さんを苦しめていたのです。
食事も睡眠もとれず、やせ細っていけば、当然体調は悪くなります。体調が悪くなれば、「祐介君を残して、自分が倒れたらどうしよう」と、ますます不安になります。その悪循環に後藤さんは陥っていました。
自分の命を救ってくれたこともある愛猫
そんな後藤さんを、祐介君も心配していたそうです。以前は、2階のベランダに洗濯物を干しに行く後藤さんについて歩いていたのが、いつしか、先に立って一段一段上りながら、息を切らしている後藤さんを心配そうに見守るようになったそうです。
一度は後藤さんの命を救ったこともありました。真冬の夜にトイレで貧血を起こして、後藤さんが倒れてしまった時のことです。後藤さんは耳元で大声で鳴く祐介君の声で意識を取り戻したそうです。トイレには祐介君は一緒ではありませんでした。トイレの扉の外で、後藤さんの異変を察知した祐介君は、トイレのノブに跳びついてぶら下がり、必死に扉を開けて、後藤さんの元に駆け付けたのです。祐介君が起こしてくれなかったら、そのまま凍死していたに違いないと、後に後藤さんは何度も語っています。
しかし、そうやって祐介君がけなげに行動すればするほど、「この子を残してしまったら……」という後藤さんの不安は高まるばかりでした。
後藤さんは、不眠症と拒食症の治療に神経内科に通っていました。しかし、処方された睡眠薬は飲んでいませんでした。たまっていく睡眠薬を見ては、「どれだけ薬があれば、自分と祐介君が楽にいけるだろう」と考えていたそうです。後藤さんは、「自分が倒れて祐介君をつらい目にあわせるくらいなら、いっそ一緒に……」と考えるほど、追い詰められていたのです。
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