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「教えて!ドクター」の健康子育て塾

医療・健康・介護のコラム

歯ブラシでのど突く事故 「出血少なくても深刻」「細菌で感染症」も…親子で歩かず歯磨きを

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けが後の発熱 急いで受診を

 歯ブラシのけがには注意が必要です。たとえ刺さるほどのけがでも、出血は少ないことが多いのです。刺さっていない場合も、注意が必要です。歯ブラシの先端に血が少し付いている程度で軽いように見えても、突いた場所によっては、血管や神経を損傷したり、「縦隔」(心臓や気管、食道などがある空間)というところに炎症を起こしたりします。

 意外に知られていませんが、口の中には非常に多くの雑菌がいます。毎日歯磨きする歯ブラシには、とても多くの雑菌が付着しているのです。そのため、歯ブラシによるけがでは、他の棒状のもの(おもちゃなど)によるけがと比べて、 膿瘍(のうよう) (膿がたまる感染症)が約10倍できやすいという報告もあるほどです(9.3%対0.9%)6)

 また、歯ブラシによるけがの場合は、後になって感染症を引き起こすこともあります。実際には何もなく無事に過ぎることも少なくないのですが、けがの後に熱を出したりするようなら、早めの受診をお勧めします。

座って磨く習慣を

 歯ブラシのけがを減らすにはどのようなことが必要でしょうか。

 米国に興味深い研究があります。生後9か月~18歳の異物による口蓋損傷205件を調べたところ、原因は、細い棒、日用品が約16%ずつ、キッチン器具、おもちゃがほぼ同数で10%でした。歯ブラシはわずか8例(4%)しか見られなかったのです7)。一方、日本では、持っていた異物による口腔内のけが43例のうち24例(56%)が歯ブラシだったという報告2)や、16例中13例(81%)が歯ブラシだったという報告3)があります。ひょっとすると、米国と日本では生活習慣に違いがあるのかもしれません。米国では、保護者が付きっきりで歯ブラシを指導する習慣が、日本より浸透しているのでしょうか? これは確認しておきたいところです。

 いずれにしても、歯ブラシを持ったまま子どもが走ることのないよう、「鏡を見ながら磨く」「座って磨く」習慣をつけることが必要です。東京消防庁も啓発用のリーフレットを出しています4)。でも、子どもに指導する前に、ちょっと待って。そもそも日本では、大人自身が歩き回って歯磨きしていることが多いのではないでしょうか。だとしたら、子どもにだけ習慣づけするなんて、難しいでしょう。子どもは大人の行動を見ながら学ぶものです。子どもが小さなうちは、大人も座って(または洗面所で)歯磨きをする、という習慣を心がけることが大切だと思います。

安全に改良された歯ブラシも

 ただし、保護者に「気をつけましょう」というだけでは事故は減りません。子育ては24時間、休みのないものです。ずっと目を離さないでいるのは無理。目の届かないところでも、事故が起きないようにする対策も重要です。グッズの改良はそのひとつです。先端が曲がって突き刺さりにくい歯ブラシや、喉の奥まで入らないようなストッパー付きの歯ブラシなどがお店で売られています。歯ブラシの事故が多い3歳前半までは、こうしたグッズを使うことで防げる事故も少なくないと思います。

 今回は、歯ブラシの事故について取り上げました。ここまで記事を書きながら、私自身も、ふと気づいたら歯磨きしながら歩いていることに気づきました。なんてことだ! ちゃんと鏡の前で磨こう!と,改めて心に誓いました。(坂本昌彦 小児科医)

参考文献:
  1. 馬場悠男:人類の進化~最新研究から人間らしさの発達を探る~.Anthropological Science(Japanese Series).2014;122:102-108
  2. 辻聡,野澤正寛,西村奈穂他:小児の転倒転落事故による口腔咽頭損傷のリスク因子.日児誌.2015;119:1347-1351
  3. 北原光,起塚庸,上村義季他:歯ブラシ等による小児の口腔咽頭損傷17例の検討.日本小児救急医学会雑誌.2018;17:51-54
  4. 東京消防庁:乳幼児の歯みがき中の事故に注意 (2020.3.18閲覧)
  5. 西村貴子,原田美由貴,朝倉夕紀子他:幼稚園児の家庭における口腔外傷の実態調査.神奈川歯学.2009;44:61-67.
  6. 山本潤,黒田徹:歯ブラシによる口腔・咽頭外傷5例の検討.小児耳;2011:32:393-400.
  7. Hennelly K,Kimia A,Lee L,etal. Incidence of morbidity from penetrating palate trauma.Pediatrics2010;126:1578-1584.

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坂本昌彦(さかもと・まさひこ)

 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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