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医療・健康・介護のコラム

歯ブラシでのど突く事故 「出血少なくても深刻」「細菌で感染症」も…親子で歩かず歯磨きを

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 人類が棒を安定して持つことができるようになったのは、約400万年前の猿人の出現以降とされています。草原での生活に適応するために直立二足歩行の能力が高くなった我々の祖先は、両手の自由を手に入れ、その結果、親指の把握力が発達し、棒などをしっかり握れるようになりました 1)

 さて、小さな子ども(特に男の子)を観察していると、棒状のものを手にするや否や、スイッチが入ったように走り出す気がします。なぜなのでしょう。子どもの発達は、「歩けるとモノを持つようになる」という人類の進化をなぞっているようです。その進化の歴史で培われた狩猟本能のスイッチが入って、走り出すのでしょうか。探検に出かける気分なのかもしれませんね。

歯ブラシでのど突く事故 「出血少なくても深刻」「細菌で感染症」も…親子で歩かず歯磨きを

イラスト:江村康子

転倒でのどを…圧倒的に多い歯ブラシ

 そんな人類の悠久の歴史に思いをはせていても、小さな子どもが棒のようなものを握りしめているのを見ると現実に引き戻されます。「なんか嫌な予感がする。転んだりしないかな」なんて心がざわついて、すぐに子どもの元に駆け寄ります。特に小さい子は、手にしたものを口に入れる習性があります。転んだら一大事! 喉を突いてしまいます。

 では、日本で子どもが喉を突き、けがをするケースで一番多いものといえば、何でしょう?

 やはり、とがっているものでしょうか。鉛筆? それとも割りばし?

 実は圧倒的に多いのが、歯ブラシなのです。異物で口や喉を突いて病院を受診したケースの6~8割が歯ブラシという報告もあります2)3)

 とがっていなくて丸いのに危ないの?と思われるかもしれません。確かに先端は丸いのですが、問題は長さです。長いため、のどの奥まで突いてしまうのです。喉の奥には大切な血管や神経もあります。刺さる場所が悪いと、脳や血管、神経を傷つけてしまう恐れもあります。今回は、歯ブラシの事故についてのお話をしたいと思います。

保護者が見ていないときに起きやすい

 歯ブラシによるけがは、子ども、特に歩行を始める1~2歳に多いとされ、その年齢が実に75%を占めています4)。歩いたり走ったりして転倒したケースが66%と多く、そのほかでは、人や物とぶつかったのが13%。とにかく転倒が圧倒的に多いのです。まだ歩行が未熟なうえ、周囲に好奇心が強くなり、大人が思っている以上に行動範囲が広くなることも一因でしょう。

 それでは、どこでけがをするのでしょうか。廊下や階段などは、いかにも危なそう。しかし、意外に多いのは子ども部屋やリビングで、保護者が夕食後の家事に追われ、きょうだいなどで遊んでいるときに増えるという報告があります5)。そのため保護者が事故の瞬間を見ていないケースが目立ちます。また、子ども自身は事情を上手に伝えられない年齢です。つまり、事故の詳細が分からないことが少なくないのです。

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坂本昌彦(さかもと・まさひこ)

 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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