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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

胃ろうを検討された76歳女性 姉が猛反対…「強い咳」に気づいた看護師の提案で

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 76歳女性。3歳年上の姉と二人暮らし。2人とも夫に先立たれ、長年、姉妹で暮らしてきた。6年前、当時の住まいに近かった大学病院で、アルツハイマー型認知症と診断された。

 訪問看護と姉の世話を受け、在宅で暮らしていた。アルツハイマー型認知症の進行を抑える薬のほか、夕方になると落ち着きがなくなり、夜間もあまり眠ることができないことから、行動・心理症状を抑える薬も服用していた。

 ある日、 誤嚥(ごえん) 性肺炎のため急性期病院に入院した。このとき、アルツハイマー型認知症の病期の分類(FAST)で「ステージ7(非常に高度の認知機能低下)」とされ、自分から言葉を発することはなかった。「傾眠傾向(うとうとと居眠りが多くなる意識障害)」にあり、食べ物を飲み込む際にむせて、口から栄養を取ることが難しい状況であった。姉によれば、患者は元気なとき、「胃ろうにはしてほしくない」と言っていたという。姉も、「妹は美食家であったから、絶対に胃ろうはしないでほしい」と強く訴え、毎日、大変な時間をかけて、患者に口から食べさせようとしていた。医療者に対しても、「食べる練習を続けてほしい」と要望したが、患者のむせこみはひどく、発熱し、体調はよくなかった。

 医師や看護師は、 嚥下(えんげ) 障害はアルツハイマー型認知症の進行によるものであり、改善の可能性は極めて低いと判断していた。訪問看護師からも、「そろそろ経口摂取は無理な時期だと考えていた」と話があった。このまま経口摂取を続けると、また誤嚥性肺炎をおこすリスクが高く、胃に直接、栄養を流し込む「胃ろう」や、経鼻経管栄養、中心静脈栄養といった栄養の補給を考える段階にきていた。

 主治医と病棟看護師は、口から食べることに対する姉の思いがあまりにも強いため、この先どうしたらよいかを悩み、摂食・嚥下障害看護認定看護師に相談した。

「強い咳を出せる」が意味すること

 摂食・嚥下障害看護認定看護師とは、加齢や疾病、治療の副作用などが原因で、摂食・嚥下機能に障害がある人に対し、医療機関や介護施設、在宅などさまざまな場所で、「飲み込むこと」「食べること」に関して専門的な支援をする看護師です。この摂食・嚥下障害看護認定看護師は、患者をアセスメントし、「傾眠傾向はあるが、覚醒している時間もある」「 (せき) 反射が良好で、強い咳が出せる」という2点に注目しました。強い咳を出せるのは、気道を守る上で重要です。覚醒を保ち、栄養状態を整え、誤嚥しても肺炎に移行しないよう 口腔(こうくう) ケアを行うこと、加えて、食事の形態や姿勢、介助に工夫をすることにより、口から食べられる可能性があるのではないかと考えました。

 嚥下造影検査の結果、ゼリーやペースト状の食事では、誤嚥がほとんどないことが確認できました。そして、翌日からは、理学療法に加え、歯科医師、歯科衛生士による口腔衛生管理、病棟看護師による間接訓練(口腔のマッサージやストレッチ、首のストレッチなど、食べ物を使用しない訓練)を行いながら、昼食のゼリーのみ、摂食・嚥下障害看護認定看護師の介助で口から食べることにしました。

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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5件 のコメント

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摂食・嚥下障害看護認定看護師

介護経験者

記事の中の患者さんを本当にうらやましく思いました。高齢者の廃用症候群の患者について、医療(特に先進医療を目指している総合病院)は「胃ろうは悪、延...

記事の中の患者さんを本当にうらやましく思いました。高齢者の廃用症候群の患者について、医療(特に先進医療を目指している総合病院)は「胃ろうは悪、延命治療には手を貸さない。」と言ってはばかりません。しかし、そのような総合病院が地域では救急搬送先になっていますから、(高齢とは限りませんが)命に関わり、本人に意思確認が難しい場合、家族は期限を限られて命の選択を迫られます。私の母も訪問医療、介護を受けながら、最後の救急搬送時に医師から「食道が開きっぱなしの状態で、このままだと誤嚥(ごえん)性肺炎を繰り返すので、今後経口摂食は無理。つまり数週間から2か月ほどの看取(みと)りです。」と診断されました。そして、このまま帰宅し、何もしない(高栄養点滴も可だが)方が本人も楽、という治療方針を告げられました。本人に帰宅の意欲と食欲があったため、このままでは母の命を奪うようで忍びなく、娘である私と弟2人が実施者になるという条件で胃ろう造設のため転院後、帰宅をしました。仕事柄、少しは知識があったので記事の中にもあった体調を整えながら、味見を楽しみ、できたら少しでも経口摂食できるようになったらという目論見がありました。しかし、もしその病院に摂食・嚥下(えんげ)障害看護認定看護師がいたり、私が調べて知っていたら、「胃ろうの周辺とその先」を一緒に考えてもらえたのではと後悔の念が湧きました。結局、その後約1年間、母は頑張ってくれ、最後は自宅で自然に亡くなりましたが、その間、体調を崩した父と弟が入院、実家をバリアフリー改築するため父母が施設に短期入所など予測していなかった事も起き、介護は想像以上となりました。少し認知面で怪しくなった父が母に水分を取らせようとする問題にも直面し、悩みました。経験から言えるのは、やはり胃ろうについては悪ではないという事と、患者の状態に応じた経験豊かなアドバイスがあれば、より個々のQOL(生活の質)を尊重する決断ができたのではないかという事です。

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胃瘻=悪ではない

名無し

誤嚥リスクが高い状態での体力維持、栄養補給のための姑息措置として胃瘻を使用。体力回復に努め、それからしっかり経口摂取訓練をして機能回復に努める。...

誤嚥リスクが高い状態での体力維持、栄養補給のための姑息措置として胃瘻を使用。体力回復に努め、それからしっかり経口摂取訓練をして機能回復に努める。

栄養摂取できなければ体力が落ち、結果的に経口摂取できなくなる。胃瘻が経口摂取機能維持に必要な場合も多々あることを知ってもらいたい。

この方はたまたま経口摂取ができたようですが、胃瘻を拒んだがために、経口摂取できなくなることがあることも覚えておいてください。

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STのいない病院だと経口摂取が全く進められないところも多いのでしょうね。

STのいない病院だと経口摂取が全く進められないところも多いのでしょうね。

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