産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
テレワークでわかった、いつもの仕事は6割の時間でできる
私は精神科の産業医として、日ごろ高ストレスの方の相談を受けていますが、それだけではなく、サラリーマンの仕事について理解を広げるために、さまざまな勤務の方と意識して雑談する機会を持つようにしています。新型コロナ禍の緊急事態宣言で「Stay Home」が推奨され、働く人々の多くがテレワークになりました。そんな人たちの話を聞いていると、テレワークは自分の仕事について考え直すきっかけになっているようです。メーカー営業部に勤務している38歳の緒方哲也さん(仮名)の話を紹介します。
「作業」と「ワーク」に分けて考える
私 :テレワークを続けていますか?
緒方さん:今日で40日目。週に4日がテレワークで、1日出社です。
私 :慣れるまで、戸惑いませんでしたか?
緒方さん:そうですね、まず部屋の確保から始めました。
私 :それから。
緒方さん:数日で気づいたのが、仕事は「作業」と「ワーク」に分けられることですね。エンジンがかかるまでは、機械的に資料をまとめるといった「作業」、効率が上がった時点で営業戦略を立てるといった「ワーク」に移ります。営業ですから、私のワークではお得意さまにメールや電話を使って対応をすることもあります。
私 :なるほど。
緒方さん:営業では、毎月20日が締め日なのですが、改めて営業実績をまとめてみると、いろいろのことがわかってきました。今まで習慣としてこなしていて、多忙で気づかなかった点です。
私 :そうですか。
会議が減って、できた時間で売り上げ分析
緒方さん:営業実績の4月、5月分をみると、担当したA製品とB製品を7社に販売しました。二つの製品が平均して売れていると思っていたのですが、意外とB製品が売れていました。どうしてかと考えて、1年間のデータを作成してみました。
私 :調べる時間はあったの?
緒方さん:ここだけの話ですが、会社で仕事をしていると、打ち合わせや会議、雑用、それに、ちょっと雑談をすることもあって、営業に出ているよりも長い時間を使っていると気づきました。テレワークで会議や打ち合わせも減って時間ができたので、その時間を活用しています。
私 :そうですか、ざっくり時間配分を言えば。
緒方さん:出勤中の仕事の全体を「10」とすると、営業活動が「3」、必要な書類の作成が「2」です。営業の仕事で必要なのは、全体の半分ですね。テレワークをしてみて、ビックリしましたよ。
私 :えっ、半分ですか?
会社では会議や打ち合わせ、雑用、雑談が5割を占めた
緒方さん:残る「5」のうち、会議や打ち合わせが「3」、雑談と雑用がそれぞれ「1」。振り返れば、会議や打ち合わせと言っても、ただ報告するだけで、慣例としてやっている感じですよ。
私 :それは無駄ですか?
緒方さん:顔合わせに意味がないわけではないと思いますが、時間が取られ過ぎていると思いました。
私 :気づきですね。
緒方さん:ざっくり言ってしまうと、「10」を要した仕事が、テレワークなら「6」でできます。習慣で会社のペースに巻き込まれていましたね。営業内容の振り返りや、じっくり検討する時間が持てませんでした。会社がどうなるかわからない時代なので、私は以前から、仕事のスキルをアップさせたいと思っていたんですよ。
私 :会社の習慣になじんで「会社人間」として働いてきたけど、テレワークをきっかけに違う働き方、「仕事人間」として働けることに気づいたわけですね。
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なかなか難しいですね。 社畜なんて言葉も聞き始めて結構経ちますが、それは結局何らかの意味があるからです。 そして、個人の信用と並んで、組織の信用...
なかなか難しいですね。
社畜なんて言葉も聞き始めて結構経ちますが、それは結局何らかの意味があるからです。
そして、個人の信用と並んで、組織の信用は大きく、だからこそ会社人間が是とされてきた部分もあります。
そして、負の部分がパワハラやアカハラでありますが、一方で、それぞれの苦手な部分や人間の補いきれない体力気力や発想の限界を超えさせてくれるのが人と人の関わりです。
いつもの仕事を手慣れた人がこなすには、テレワークや個人事務所の方が効率がいい部分もあるでしょう。
一方で、それ以外の部分をどうするか、今後の課題になってくると思います。
それほどに、仕事は慣れや惰性の部分も大きくありますし、教育や開発などに関してはもっと複雑だと思います。
サッカーで考えるとよくわかりますよね。
攻撃の得意な個人や優秀な2-3人に依存したチームか、全体にまんべんなく仕事を割り振ったチームか、どちらがいいかは個性でしかありません。
一方で、政府が積極的に主導することで、学び方や働き方の多様性が多少は担保されることに意味があるのではないかと思います。
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