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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

緩めることと 締めること

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緊急事態宣言は解除されたけれど

緩めることと 締めること

 皆さん、こんにちは。月イチ連載だと、どんどん状況が変わっていくので大変です。

 前回は、緊急事態宣言ど真ん中での、外に出ない、人と近づかないことについてお話ししました。本稿を書いているのは5月27日。緊急事態宣言が全国的に解除となっています。一方、新型コロナウイルスは日本から排除されたわけではありません。東京都や北海道では毎日新たな感染者が見つかっていますし、北九州のように新たな流行が起きている場所もあります。

 ウイルスは人間の体で増殖しますから、どんなに減らしてもゼロにならない限り、また増えてしまう可能性があります。とくに、この新型コロナウイルスは非常にたちが悪いウイルスでして、条件がそろうと非常に多くの人に感染を広げる性格を持っています。これを端的に表現したのがいわゆる「3密」というやつです。

新型コロナ 根絶されたわけではなく

 全国レベルで言えば、多くの地域ではコロナウイルスはいなくなっていることが推察されます。感染者が全然見つかっていませんから。しかしながらこれはあくまでも「推察」に過ぎず、絶対的な保証ではありません。

 いくつかの感染症については流行の終結や国内での排除、あるいは地球上からの根絶といった現象が確認されてきました。例えば、西アフリカでのエボラウイルス感染症の流行は終結しましたし、日本では(いわゆる「野生の」)ポリオは排除されています。地球上からは天然痘ウイルスは根絶されました(一部実験室を除く)。

 一方、インフルエンザは毎年抑えては流行し、抑えては流行し、というサイクルを繰り返しており、近い将来に根絶する可能性は非常に低いです。麻疹も日本国内での発生はほぼなくなりましたが、世界ではまだ流行を続けていて、海外からのウイルス持ち込みや、国内での流行がときどき起きています。

 コロナウイルスは日本のほとんどの地域では消えてなくなった可能性が高いのですが、同時に根絶はされていないことも確かです。この煮えきらない中途半端な状況を、我々はどのように生きていけばよいのでしょうか。

「少しずつ扉を開く」

 ヒントは、Jリーグにあります。少なくとも、ヒントの一つはJリーグにあります。

 本稿執筆時点ではまだ決定していないこともありますが、Jリーグは早晩、再開する予定のようです。当初は三つのブロックに分けて「ご近所同士」で試合をし、無観客にして感染リスクを減らすのですが、数試合した後には、入場者数を絞って無観客試合を脱出し、その後、観客数も増やしていくプランのようです。(※編集部注 Jリーグは5月29日、J1を7月4日、J2、J3は6月27日に再開、開幕することを決めました。無観客試合から始め、当面は近隣のクラブ同士の対戦を優先的に組み、7月10日以降、段階的に観客を迎え入れる形での開催を目指すとしています)

 これは要するに「少しずつ扉を開く」というやり方です。いつでも後戻りできるやり方、と換言してもよいです。

Jリーグのリーダーシップから学ぶこと

 すでに申し上げたとおり、現在の日本の状況は「微妙」で煮えきらないものです。過度な感染対策は経済活動を縮小させたり、社会活動を行えなくしたりと、いろいろと副作用が大きいです。かといって、感染対策ゼロというのもやりすぎで、そこまで看過してよい状況ではありません。よって、「落とし所探し」ということになります。それも微調整を重ねながら。

 Jリーグの村井満チェアマン、素晴らしいリーダーシップですね。Jリーグを再開させる、というビジョンから逆算して、どういう着地点がもっとも妥当な着地点かを考え続ける。理性と勇気の両方がなければなかなかこうはできません。日本では、このような理性と勇気を併せ持つリーダーって稀有(けう)な存在なんですよ。たいていは、例えば……。え? 紙数が尽きましたか。では、以下は自粛します……。(岩田健太郎 感染症内科医)

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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