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産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ不況で自殺者増が心配、どう対応するか

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 新型コロナ禍では、「3つの『密』を避け、命を守ろう」が合言葉ですが、産業医の私が心配しているのは、「命を守る」は感染予防だけではないことです。営業自粛や「Stay Home」で経済活動が停止、減速し倒産する企業も出ていて、失業率の上昇も心配です。私には、かつての悪夢がよみがえってきます。自殺者急増の悪夢です。わが国では1998年以降、14年連続で自殺者が3万人を超える状態が続きました。中高年が多く、不況の影響が指摘されています。近年は2万人余りに減っています。教育社会学者の舞田敏彦氏は失業率が1%上昇すると自殺者が約2,500人増加すると報告しています。失業と自殺の関連は深いのです。

割烹料理店経営者が調理場で自殺未遂

 私は精神科医、産業医として、自殺未遂者の対応を長年行ってきました。ノウハウを生かし、ひとつの事例を通して対処のポイントについて説明します。2008年のリーマン・ショックの後も不況になりましたが、その頃の経験です。 割烹(かっぽう) 料理店を営む山川太郎さん(51歳、仮名)が深夜、調理場で首つり自殺をしようとしているのを、妻が気づいて止めました。翌日には、かかりつけ医を受診させ、その紹介で精神科外来を訪れました。

私   :かかりつけの医師からは、「自殺未遂があり、うつ病が疑われます。専門家に診療をお願いしたい」と依頼されました。

山川さん:首をつろうとする寸前、妻が飛び込んできて止められました。

妻   :(必死の表情で)治療をお願いします。店より夫のことが心配です。

深夜や早朝に目覚め、うつ気分が続く

私   :気分はどうですか? 沈んでいますか?

山川さん:そうですね。接待での利用が激減して、店の経営が気になって……。

私   :気力は出ますか?

山川さん:(イライラしながら)やる気を出さなければいけないけど、体が動かないんです。

私   :眠れますか?

山川さん:夜中に何回も目覚めます。その後も眠れません。つらいです。

私   :起床はどうでしょうか?

山川さん:いつも午前4時に目覚めて、それきり眠れません。

私   :どのくらい続いていますか?

山川さん:もう2週間くらい。

妻   :私がおかしいと思ったのは、4週間くらい前からです。

経営不振からうつ病に

私   :うつ病でしょう。病気なので仕事から離れて、休養を取ってください。

山川さん:(ムッとして)休むわけにはいかない。店が回らない。

私   :薬を出しますから、飲んでくださいね。

妻   :あなた病気だから休むのよ。薬を飲みましょう。

私   :死にたいという感情、発作は、ありますか?

山川さん:衝動的に起こりそうな感じがします。

私   :自殺の可能性があるので入院です。

妻   :入院はさせたくないです。私も自殺に気を付けますから、何とか外来で。

山川さん:絶対に入院はしないぞ。

私   :わかりました。条件があります。家族が絶えず自殺に注意を。1週間後に来てください。

妻   :わかりました。(夫に向き合い、目を見つめながら)あなた、自殺はやめてね。お薬飲んでよ。

山川さん:(妻と向き合いながら)自殺はしない。

うつ病、よく眠るのも仕事

 2回目の受診では、少し様子が変わってきました。

私   :いかがでしょうか?

山川さん:眠れるようになりました。

妻   :(ホッとした表情で)先生、毎日12~15時間眠っていますよ。

私   :今まで眠れていない分の補給です。過労続きでしたからね。

山川さん:眠ると、悲観的な思いが多少減ったかな……。

私   :良かった。今は眠るのが仕事です。1週間後に来てください。

山川さん:わかりました。

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natsume-prof

夏目誠(なつめ・まこと)
 精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。日本産業ストレス学会前理事長。著書に「中高年に効く! メンタル防衛術」「『診断書』を読み解く力をつけろ」「『スマイル仮面』症候群」など。新著は企業の人事や産業医向けの「職場不適応のサイン」。ブログ「ストレス点数の夏目」はこちら

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2件 のコメント

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聞いた話

名無し

日本の中小企業経営者は借金を個人保証していることが多い。 「取引先に迷惑をかけられない」「死んで保険金で返す」と思い詰めても多いのだとか。 今回...

日本の中小企業経営者は借金を個人保証していることが多い。
「取引先に迷惑をかけられない」「死んで保険金で返す」と思い詰めても多いのだとか。
今回のように自己破産できればいいが、うつ状態で冷静な判断と行動はできない。
早めに適切な相談先は必要。
どうやってつながるか。

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セーフティネットは自殺以外も防ぐかも

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

愛ゆえに人は苦しまねばならぬ、とか言えば、ふと頭の中に思い浮かぶ情景がありそうですが、人は様々なものに愛とか執着があります。 特に経営者は、より...

愛ゆえに人は苦しまねばならぬ、とか言えば、ふと頭の中に思い浮かぶ情景がありそうですが、人は様々なものに愛とか執着があります。
特に経営者は、より多くの人間の人生の一部を背負うために、一過性にかかる重圧は並大抵のものではないと思います。

仕事だけ人間の脆さなんかもありますが、一つのもの、一つの答えに執着し過ぎると視野も狭くなってますます大変です。
新型コロナ下での給付金などの社会保障も揺れていますが、そのためにも休養が必要ですし、社会制度はいわゆる病気の概念を超えて進んでいくといいと思います。

多くの自殺者は、ほとんどの人にとって他人です。
無慈悲に、死にたい奴は死ねばいいという考えもあります。
一方で、働きアリの原則ではありませんが、人間というか動物の集団は必ず構造弱者を生むようになっているため、弱者を排除すると、自分もまた一歩弱者に近づきます。

エコノミックアニマルと言われた日本人は、この比較的平和な日常が経済の過酷な戦場で、年間2-3万人死んでいると考えることもできます。
高齢化や重病などによる社会的死亡に伴うものもそうですよね。
定年の延長は、経済への「軍務」の延長とも捉えることができます。

何が適切かという部分は僕自身も分かりませんし自分もケアが得意ではありませんが、弱者への無関心はともかく、セーフティネットの設計や敵意を向けないというのは大事なのではないかと思います。
自殺などの自傷行為は、生存競争社会で他人を傷つける意欲の薄い人間が代わりに自らを傷つける行為とも言えます。
歯止めを失えば、自殺だけでなく、事件や他殺も増えていくことでしょう。

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