田村専門委員の「まるごと医療」
医療・健康・介護のコラム
新型コロナ 治療薬開発で忘れてはならないこと
観察研究のみでの評価には疑問
日本医師会の有識者会議の緊急提言は、緊急事態であることを踏まえつつも、科学的な根拠が不十分な薬剤を承認することを厳しく戒めている。
なかでも強調しているのは、比較試験とは異なる「観察研究」を根拠とすることの問題だ。緊急提言は観察研究について、患者の同意が取得しやすいことなどから「パンデミック下ではその傾向が強まる」と指摘したうえで、エビデンスの判定基準を下げる誘惑にはあらがうべきである、と指摘。「有効性を永遠に証明できなかった薬剤は過去にも存在した」「『科学』を軽視した判断は最終的に国民の健康にとって害悪となり、汚点として医学史に刻まれることになる」「サリドマイドなど数々の薬害事件を忘れてはならない」など、科学的根拠を軽視することのないよう厳しい言葉を連ねた。
レムデシビル 回復までの日数を短縮
今回発表されたレムデシビルの試験は、約1000例の患者を本物の薬を使うグループと偽薬のグループに分けた二重盲検によるもので、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)が主導し、日本も参加して、アジアの患者も1割強含まれている。予備的解析によると、主要な評価項目である回復までの日数の中央値は、レムデシビル群で11日だったのに対し、偽薬群では15日と、統計的な意味のある差がみられた。副次的な評価項目とした死亡率では、レムデシビル群で低い傾向があったが、統計的な有意差は示されなかった。
レムデシビルを巡っては中国の研究グループが4月に医学誌「ランセット」に発表した研究で、回復にかかる期間に有意差がみられなかったとして有効性を否定している。この結果については、中国国内の流行の収束で当初計画していた症例数を確保できなかった影響が指摘されている。
アビガンなど臨床試験が進行中
ファビピラビル(商品名アビガン)については、日本国内で企業治験や大学を事務局とした特定臨床研究のほか、観察研究もおこなわれている。国は当初、5月中の承認を目指すとしていたが、26日、月内承認は見送られることとなった。
新型コロナウイルス感染症の診療の手引き第2版(5月18日発行)によると、このほか既存薬で国内で治験や特定臨床研究が実施されているものには、ぜんそく治療の吸入ステロイドのシクレソニド(同オルベスコ)、急性膵炎治療薬のナファモスタット(同フサン)、関節リウマチ治療薬のトシリズマブ(同アクテムラ)、サリルマブ(同ケブザラ)がある。緊急事態宣言は全国で解除されたが、再び感染が広がる事態への備えに加え、世界的な流行はなお続いている。治療薬開発に向けた臨床試験の結果が待たれる。(田村良彦 読売新聞専門委員)
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