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田村専門委員の「まるごと医療」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ 治療薬開発で忘れてはならないこと

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レムデシビルを特例承認

新型コロナ 治療薬開発で忘れてはならないこと

 新型コロナウイルス感染症の治療薬の研究開発が進んでいる。レムデシビルの臨床試験を進めている米国などの研究チームは5月22日、医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に、予備的解析としての論文を掲載し、症状が改善する日数が短縮されたとの結果を報告した。概要は4月末に明らかにされており、米国での緊急時使用許可を受け、日本は5月7日、世界に先駆けてレムデシビル(商品名ベクルリー)を「特例承認」している。

 国はまた12日、新型コロナウイルス感染症に対する医薬品の承認審査については、公的な臨床研究の成果に基づき、治験の結果を待たなくても最優先で審査するなど特別な扱いをすることを発表した。

 そんな中、日本医師会の有識者会議は17日、「新型コロナウイルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言」を発表。緊急事態において、新薬承認を早めるための特例処置は理解するとした一方で、「有事といえども科学的根拠の不十分な候補薬を、治療薬として承認すべきでないことは明らかである」と述べ、拙速な承認が行われないようくぎを指した。レムデシビルの早期承認には理解を示しつつ、それ以外の具体的な薬剤名には触れていないものの、アビガンをはじめとする候補薬への取り扱いを念頭においたものとみられ、著名人が使って改善したことなどを基にあおるような風潮に対し、強い懸念を表した。

薬を飲んで良くなった≠薬が効いた

 薬の有効性というのは、具体的にどういうことか。たとえば、「ある患者にAという薬を使ったところ、症状が回復した」ケースがあったとする。この結果から、Aという薬には、症状を改善する効果があったと言えるかどうか。

 答えは、この結果だけでは薬が効いたせいかどうかは、「わからない」。

 なぜか。時間的な経過からみれば、薬を使った後に良くなっているので、薬が効いたようにみえる。しかし、薬を使わなくても、良くなったかもしれない。この結果だけからは、薬の効果なのかどうかは何とも言えない。逆に、薬を使わない方が早く良くなったかもしれない。

 「ある薬を使ったところ、効果がみられた患者がいた」という情報は、極めて重要だ。特に新型コロナウイルスのような緊急の対応が求められる病気では、既存の薬の中から効果が望めそうな薬を見つける意義は大きい。治療薬を探すうえで重要な手がかりになる。

 そのうえで、本当にその薬のおかげで良くなったのかどうかを調べるには、薬を使った場合と使わなかった場合を比較する臨床試験が必要だ。「使ったら良くなった」という症例報告だけでは、効果を証明したことにはならない。

無作為化比較試験が重要

 薬の効果を調べるためには、薬を使うグループと使わないグループに患者を無作為に分けて比較する試験が重要だ。なかでも信頼性が高いとされるのは偽薬(有効成分の入っていない偽物の薬)などを用いた二重盲検試験で、薬を出す側にも患者側にも、本物の薬なのか偽薬なのかは知らされない。効果が出そうな?人に本物の薬が出されたり、処方された薬が本物か偽薬かを患者が知ってしまうことで結果に影響を与えたりすることを避ける狙いがある。

 さて、試験の結果、本物の薬を使ったグループの半数以上で改善が見られたとして、この薬は効果があると言えるかどうか。

 答えは、この結果だけでは、有効かどうかは「わからない」。あらかじめ設定した評価の基準について、本物の薬を使ったグループの治療成績が、偽薬を使ったグループの治療成績と比べ、統計的に意味のある差(有意差)をもって上回った場合に、有効性が証明されたことになる。効果とともに、副作用についての評価も重要だ。

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田村 良彦(たむら・よしひこ)

 読売新聞東京本社メディア局専門委員。1986年早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。西部本社社会部次長兼編集委員、東京本社編集委員(医療部)などを経て2019年6月から現職。

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