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遺伝性乳がん卵巣がん症候群…手術・予防切除 同時に
遺伝性の乳がんや卵巣がんになった患者が、新たながんを防ぐために、発症していない乳房や卵巣を摘出する手術(予防切除)が今年4月、公的医療保険の適用になった。遺伝子検査や、切除を望まない患者の検診、遺伝カウンセリングも対象だ。(中島久美子)
がん発症で保険適用
保険診療の対象は、BRCA1、2という遺伝子に変異がある「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」で、乳がんや卵巣がんになった場合だ。この遺伝子変異は親から子に2分の1の確率で受け継がれる。乳がん患者の約5%、卵巣がん患者の約15%に相当する。
卵巣がん患者のほか、乳がん患者であれば、〈1〉45歳以下で発症した〈2〉60歳以下で「トリプルネガティブ」というタイプだった〈3〉身内(いとこや、祖父母のきょうだいなどまで)に乳がんや卵巣がんの患者がいる〈4〉男性乳がん――などのいずれかに該当すれば、HBOCの可能性が高まる。
HBOC女性は、80歳までに7割が乳がんに、2~4割が卵巣がんにかかるとの報告がある。通常のがん検診ではなく、がんの発症のリスクを減らす別の対策が求められる。
乳がん予防は、乳房の予防切除か、MRI(磁気共鳴画像)検診などで早期発見を目指す。
卵巣がんは、早期発見の検診手段がない。出産を望まないなら、卵管・卵巣の予防切除が推奨される。
2007年秋、東京都のパートA子さん(50)は、左の乳房にがんが見つかった。37歳だった。
手術に抗がん剤、放射線――。一通りの治療を終えて経過観察を続けていた16年、遺伝子検査を受け、HBOCと診断された。
「もうつらい治療はしたくない。がんの不安を抱えて過ごしたくない」と思い、予防切除にひかれたが、即断できなかった。右乳房か、卵巣・卵管か。いずれかだけでも数十万円かかる。乳がんのため両乳房を摘出した母が、黙って100万円を振り込んでくれた。同年秋、卵巣と卵管の予防切除を受けた。
右乳房は、定期的にMRI検診を続けてきた。今年3月の検診で、右の乳房にがんが見つかった。保険適用の知らせを聞き、予防切除を具体的に考え始めたタイミングだった。
救命増へ期待感も
A子さんは「MRI検査を受けていたから早期発見できた。保険適用で、検査や手術のハードルが下がり、多くの人の命が救われるとよい」と期待する。
予防切除で、がん発症のリスクは9割以上減る。卵巣・卵管の手術や、乳がん患者が、反対側の乳房を摘出する手術は、死亡リスクも下げる。
日本では、保険診療と自費診療を併用する「混合診療」は認められない。これまでは、予防切除とがん手術は原則、同時にできなかった。昭和大先端がん治療研究所の医師吉田玲子さんは「これからはがん手術と予防切除を1回で済ませられる。身体的な負担も減る」と説明する。
日本遺伝性乳 癌 卵巣癌総合診療制度機構理事長の中村清吾さんは「がんを発症していないHBOC女性の対策は、保険の対象外。こうした女性の心身や経済的な負担をどう減らすかも課題だ」と話す。
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