アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直
医療・健康・介護のコラム
10年続いた「ツバ飛ばし」は職人芸!?…「こだわり」にどう向き合うか
1年ほど前、リビングの壁紙をリフォームした。どこの家でもありそうなことだが、わが家では、実に画期的なことだった。
自閉症スペクトラムの子どもたちには、様々な「こだわり」があることが多い。洋介の場合は、小学校から中学生まで、これまでで最も長く続いたこだわり行動が「つば遊び」だった。自分のつばを、指ではじいて飛ばしたり、自分の顔に塗りつけたり。他人の顔や髪の毛にも、実に正確なコントロールで命中させるので、街中やお店ではひやひやさせられたものだ。
「壁紙はがし」まで…
外で気を使う分、家の中では放置していたので、気が付くと、天井も壁も、洋介が飛ばしたつばだらけになっていた。「ツバ、ツバ!」と言いながら、叱られてもけらけら笑っていた。時間がたつと、その部分にカビが生えて変色し、それが斑点となって全体に広がって、他人には見せられないようなリビングルームになっていたのだ。さらに、「壁紙はがし」という恐ろしいマイブームにとらわれていた時期もあって……。お客を部屋に上げるのに 躊躇 する状態が20年近く続いたのだ。
当の洋介は、この長く続いた癖を、今ではすっかり忘れたようである。それでも、きれいにした途端にまた汚されるのではないかと思い、お金をかけて壁紙を貼り替える気になるまで、しばらくかかったのだ。
都会のバス通りの真ん中で
思えば、これまで数多くのこだわりとともに成長してきた洋介。3歳頃には、公園の滑り台を、何時間もひたすら滑り続けたことは、以前にも書いた。同じ頃から特に興味を示したのがマンホールのフタだった。街を歩けば、至る所にマンホールがあるわけで、それを目にするたびにしゃがみこんで離れず、「マーク、マーク」と指さすのだった。
なので、買い物に行くにも、道中、時間がかかる。こちらも気長に構えるしかないのだが、油断していると思わぬことも起きる。
妻の実家に近い東京・世田谷の商店街で、ふと目を離したすきに、洋介がいなくなった。振り返ると、バス通りの真ん中で、一人しゃがみこんでいる子どもの姿が……。魅力的なマンホールのフタを見つけて、一目散で駆け寄っていったのだった。幸い、信号待ちで車は停止していたが、そんなヒヤッとした経験は何度かあった。
今でこそ、マンホールはマニアがいるくらいの人気だが、洋介のこだわりも、意外とマニアに近いところからきているような気もする。
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