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医師が教える「女と男、髪と地肌の話」 田中洋平

医療・健康・介護のコラム

人間の体表面はつるつるなのに、なぜ陰毛があるのでしょうか?

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 新型コロナウイルスの感染拡大も、どうやら少し落ち着いてきたようです。いよいよ社会活動も再開されそうで、新入社員や新入生など「新しい生活をお預けされた」方々にとっても、待ち遠しいことでしょう。

 気が付けば、もう夏が目前です。

 今回、そして次回では、髪と地肌、つまり「頭髪」から少し離れて、人間の「毛髪」についてお話ししたいと思います。

色素沈着を起こしやすい陰部を守る

 いきなりの小見出しに、驚かれたかもしれません。

 人間は、進化の過程で衣服を身にまとうようになり、毛髪を頭部や陰部などの身体の一部に残すだけになりました。基本的に、一部を除いて、つるつるの体になった人間なのに、なぜ陰部には毛が残ったのか、不思議に思われた方はいるかもしれません。

 もちろん、陰毛にも重要な役割があるからこそ、存在しているのです。

 人間の陰部はほぼ粘膜で覆われ、粘膜の再生能力はとても高く、傷ついてもすぐに修復されます。とはいえ、繰り返して擦れたりする機械的刺激に対しては、皮膚ほど強くはありません。だからこそ、周辺を毛で覆うことで保護するために、進化の過程で陰部に毛を残したと考えるのが合理的です。さらに、細菌など外部からの異物をブロックする役割もあり、感染予防においても重要です。

 やはり女性にとって、肌の露出が増えるこの季節、永久脱毛のニーズは確実に増えます。

 ただし、気を付けていただきたいことがあります。

 ある日、県内にお住まいの20代の女性がクリニックに来られました。すでに、陰部まですべて永久脱毛をしておられました。そのため、下半身が擦れて傷つきやすくなり、その繰り返しで、さらに、黒っぽく色素沈着しやすくなったというのです。

 確かに、陰部は比較的色素沈着を起こしやすく、繊細な領域のためレーザーや外用剤による美白も、優しく低出力で根気強く施術することになります。常に外部からのストレスにさらされ、皮膚全体が強くなっている顔に比べると時間がかかり、大変な治療になります。

 この患者さんには、美白の光治療、それに外用剤で色素沈着を落ち着かせることができました。すべてが終わるまで半年がかりになりました。

 陰部の永久脱毛はさまざまなリスクが高まる可能性があります。だからこそ、脱毛を希望する患者さんには、陰毛の役割についてしっかりご説明し、それでも納得された場合に治療をご案内するようにしています。

 さて、私たちの先祖は、顔と手のひら、足の裏以外の全身が長い体毛で覆われていました。 なぜ、それが現在のようなつるつる、すべすべの肌になったのでしょう。

 すべての生命体は、生き残ることに精いっぱいです。生物学的に不要なものを備える余裕はなくて、進化の過程で本当に生存に必須のものだけを次世代に残しているのです。

 頬や手足がつるつるなのに、頭だけふさふさ。面白いですよね。大切な頭部を守ってくれている頭髪の重要性については、以前にもこの連載でご説明した通りです。

空気でフェロモンが吹き飛ばされるのを防ぐ

 さて、一方で、毛髪を頭部や陰部などの身体の一部に残した理由として、外部の刺激から守るため以外にも、考えられる理由があります。生物学的には種を維持するための生殖活動のためです。

 前回にも、少しふれましたが、様々な生物は、異性をひきつけるホルモンであるフェロモンを放出します。頭髪、毛髪はフェロモンの保持に役立っているのです。

 都内の20代の女性は、わきの汗が気になるからと治療を希望して、長野県松本市の私のクリニックに見えました。通常、わきの汗の治療は手術、もしくはボトックス治療が選択されます。手術をすると、わずかに傷跡が残ってしまう可能性があり、同時にわきの下から放出されるフェロモンが減少する可能性があります。そこで、私はワキガ治療や多汗症にはボトックス治療をご案内しています。

 この患者さんの場合も、わきの皮下の組織を除去する 腋臭(えきしゅう) 症の手術をしてしまうと、フェロモンも減ってしまう気がするからという理由で、私のクリニックで定期的にボトックス治療をされています。

 ちょっと話がそれてしまいましたので、毛髪の話に戻りましょう。人間の場合、毛髪は空気の流れでフェロモンが吹き飛ばされてしまうのを、長時間体表面に保持できると考えられています。人類にもフェロモン物質が分泌されていると言われていて、わきの下や陰部などのアポクリン腺から分泌されているとされています。

 頭髪からもフェロモンが分泌されるとはされていませんが、分泌されていてもおかしくはないですよね。頭髪からも分泌されるのであれば量も多いでしょうから、面白いのですが。

デリケートな感覚を感知する

 さらに、毛髪にはもうひとつの役割があります。ちょっとした感覚の感知です。

 猫のひげはとても敏感で、細い隙間を通り抜ける際も、ひげで隙間の幅を瞬時に測定して、安全に通り抜けられるか判断します。細い隙間の壁にひげが当ると、くるりと逆戻りするのでひげの役割を確認できますね。

 ヒトの毛根にも、知覚神経が放射線状に付着しています。非常に敏感で、弱い刺激にも反応し、危険などの回避に役立っているとされています。

 髪の毛をなでられると、リラックスできたり、びくっとしたり、硬直したり、身体にいろんな反応がおこりますよね。それが心地よかったり、興奮したり、不快だったり、警戒したり、状況に応じて、受ける感覚が変わります。

 髪の毛って本当に面白いですね。

 生命の部位は、それぞれに大切な役割があるからこそ、そこに存在していると思っていただくと、きっと新たな発見があると思います。大切な命を守るために、身体のそれぞれの部分がとても大切な役割を果たしていることを、気にとめていただければと思います。(田中洋平 形成外科医)

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田中 洋平(たなか・ようへい)

 クリニカタナカ 形成外科・アンティエイジングセンター(長野・松本市)院長 新潟薬科大学客員教授、東京女子医科大学非常勤講師。1975年生まれ。

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