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乳幼児の熱中症死 半数以上は車内で…「子どもの置き忘れ」が起きやすい状況とは?
冷房切れるとあっという間に温度は上昇
「冷房をつけていれば大丈夫でしょ」と考えている人がいるかもしれません。確かに冷房がトラブルなくオンのままであれば、車内の気温は低く保たれるでしょう。しかし、メンテナンスが十分に行き届いていない車だと、暑い場所でエンジンがオーバーヒートし、止まってしまうことがあります。冷房が切れてしまったら、車内はどうなるでしょうか。
冷房が止まった車内の気温変化について、様々な報告がなされています。 05年の研究 では、自動車の閉鎖空間における室温上昇と小児への影響について考察しています 7) 。それによると、<1>それまで冷房がついていても、いったん空調が切れると、車内温度は5分以内に周囲の温度と同じになる、<2>車内温度上昇の80%は最初の30分で発生し、窓が1.55インチ(約4センチ)開いていたとしても、上昇傾向は、窓が完全に閉鎖されていた場合と変わりなかった、とのこと。冷房が切れると、あっという間に車内温度は車外と変わらなくなること、また、窓の上側を開けていても温度の上昇を避けることはできないことがわかります。
JAFによる車内温度の検証テストについても、同様の報告がありました 5) 。これによると、気温35度のときに戸外に駐車した車内の熱中症指数は、エンジン停止後、窓を閉めた状態だと、15分で人体にとって危険なレベルに達しています。日陰に駐車していても、日なたと比べて車内温度の差は7度しかなかったとのことです。日陰だから大丈夫なわけではないことがわかりますね。
このようなリスクの高い車内環境に加え、子どもには、成人よりも熱中症にかかりやすい特徴があります。成人よりも体重あたりの体表面積が大きい上に、体温調節機能が大人と比べて低く、暑い場所では体温が上がりやすいことが指摘されているのです 7) 。また、大人は周囲の環境変化に合わせ、服を脱いだり、冷たい飲み物をとったり、涼しい場所に移動したりできますが、幼い子どもにはそれができません。このような理由で、子どもが車内に放置されると、熱中症になるリスクが非常に高くなります。さらに、熱中症以外にも、バックル(シートベルトなどの留め金)によるやけど、子ども自身が車を動かしてしまう、犯罪に巻き込まれる可能性など、多くのリスクがあることも知っておいてほしいです。
「気をつけてください」で事故は減らない
さて、ここでもう一つ、事故予防に忘れてはいけない原則をお話しします。それは 「気をつけてください」だけで事故は減らない ということです。
車内放置なんて私は絶対にしない、するわけがない、と思っていませんか? そのような過失を犯すのは愛情不足の保護者に違いない、自分には関係ない、と思っていませんか? 前出のイタリアの研究 3) では、車内放置が原因で亡くなった16例を調べたところ、12例は、仕事や買い物の用事をすませる間、子どもを車内に待たせていたケースでしたが、3例は、「うっかり車内に子どもを忘れていたケース」でした。「子どもを忘れるなんて、そんなことが起きるはずがない」と言われそうですが、これは科学的にあり得る話なのです。
人は、日々の習慣となっている行動を記憶し、自動操縦のように無意識下で行動できますが、普段と異なる行動をしたときに、その事実が抜けてしまうことがあります。たとえば、いつもは会社に直行直帰なのが、その日、たまたま保育園の送迎などで子どもを乗せていた場合、子どもが眠り込んでいると、うっかりその存在を忘れてしまう可能性があります。また、人の記憶システムはとても不安定で、特にストレスなどが影響すると記憶が抜けてしまいやすい傾向があります。 08年に記憶に対するストレスの影響を評価した研究 では、ストレスは作業記憶に影響を及ぼすと述べられています 8) 。
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