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のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行

医療・健康・介護のコラム

診療明細書を見てみよう

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患者の悩みは病気の具合だけではなく

前回と今回で窓口の支払額が違う なぜ?

筆者が実際に入院した際の明細書

 のぶさんのカフェを後にして、腰痛で悩む母に電話した。患者が悩むのは、単に体や病気のことばかりではなく、日常生活への影響や将来への不安などもあるという話を聞き、急に母に電話をしたくなった。

 突然の電話に、母は驚いているようだ。あえて病気には触れずに、最近の生活の様子を聞くことにした。しかし、すぐに腰痛による通院の話になった。やはり、母のなかで病気であることによる影響は大きいようだ。

前回と診察の内容は同じなのに値段が違う

 「どうして、前回と今回の値段が違うかわからないのよ」

 母が言った。

 検査の内容などは同じだったにもかかわらず、前回受診した時と窓口での支払い額が違ったらしい。詳しい理由は私にもわからない。しかし、高齢となり収入がほとんどない母にとっては、わずかな金額の違いでも気になるだろう。

 翌日、私はランチタイムにのぶさんのカフェを訪れた。自身が身体障がい者であり、がん患者でもあるカフェオーナーののぶさんは、患者としての経験が豊富で、医療のかかり方について詳しい。そこで、少し手の空いたタイミングに、昨晩の母の疑問を聞いてみた。

 「明細書の何の費用が前回と違っていたのでしょうね?」

 のぶさんが聞いてきた。

 「そこに書かれている点数を見比べてみると、値段の違いの理由は何か、想像つくことが多いですよ」

 明細書? 点数?

 「それでもわからなければ、会計を担当した方に聞いてみればいいんです。遠慮することではないですよ。自分のことなのだから」

3割負担分の残りはどこから?

 病院や薬局が患者に渡す明細書は、点数で記載されている。1点は10円だ。

 例えば、診療所や中小規模の病院での「再診料73点」。1点=10円なので730円が医療機関側の収入になる。3割負担の患者ならば、そのうちの3割(約220円)が窓口での自己負担額になる。

 のぶさんは、自分の入院時の明細書を見せてくれた。それぞれの費目の意味はよくわからないが、なんとなくどのような場面でかかるのかは漠然と把握できる。

 よく考えると、3割負担の私も、言い換えれば7割引きで医療を受けられると言うことだ。残りの7割は、それぞれが加入している保険者(国保や企業健保など)が負担している。保険者の財源は保険料や税金からなっている。言い換えれば、国民のみんなで負担し合っていると言うことか。国民皆保険という制度はありがたい。

 だからこそ、たとえ医療費の自己負担がない方でも明細書は受け取り、自分の診療に対して、どれだけの金額が費やされているかを知るべきだと思った。それらは、だれかが負担してくれているのだ。そこへの感謝の気持ちを感じることが大切だろう。

入院の前にはあらかじめ費用を質問することも

 そう言えば、医療費は検査などを受ける前には患者に知らされない。不思議なシステムだ。

 「緊急時でない場合になりますが、大きな検査や入院を提案されたら、主治医におおよその自己負担額を尋ねると、答えられる病院の担当部署を紹介してくれますよ」と、のぶさんが言う。

 医療費の仕組みは複雑なので、患者ひとり一人の治療内容に応じた費用まで答えられる医師は少ない。また、入院期間の正確な日数は事前には確定できないため、確定した額はわからないことが多い。ただ、そういった場合でも、おおよその金額は分かるようだ。

 保険の1か月当たりの自己負担額を抑える高額療養費制度や、支払いが厳しい場合は貸付制度などもあり、大きな病院ではソーシャルワーカーという職種の方が相談に乗ってくれる場合もあるそうだ。

 医療現場では、お金の話を聞きにくいと私は思ってしまう。

 「医療でなければ事前に金額がわかるのが当たり前ですよね。もちろん正確な額は分からないにしても、いくらぐらい用意しておけばいいかを尋ねても、全く失礼ではないですよ」

 のぶさんは力強く私に言う。背中を押された気分になる。私も母に力強く言ってみよう。

(鈴木信行 患医ねっと代表)

 下町と言われる街の裏路地に、昭和と令和がうまく調和した落ち着く小さなカフェ。そこは、コーヒーを片手に、 身体(からだ) を自分でメンテナンスする工夫やアイデアが得られる空間らしい。カフェの近所の会社に勤める49歳男性の私は、仕事の合間に立ち寄っては、オーナーの話に耳を傾けるのが、楽しみの一つになっている。

(※ このカフェは架空のものです)

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鈴木信行(すずき・のぶゆき)

患医ねっと代表。1969年、神奈川県生まれ。生まれつき二分脊椎の障害があり、20歳で精巣がんを発症、24歳で再発(寛解)。46歳の時には甲状腺がんを発症した。第一製薬(現・第一三共)の研究所に13年間勤務した後、退職。2011年に患医ねっとを設立し、より良い医療の実現を目指して患者と医療者をつなぐ活動に取り組んでいる。著書に「医者・病院・薬局 失敗しない選び方・考え方」(さくら舎)など。


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