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高齢者の社会的孤立は入院の危険因子 呼吸器疾患による入院との関連を検討

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 英・University College LondonのFeifei Bu氏らは、英国の縦断的加齢研究における約4,500人のデータ解析の結果、高齢者の社会的孤立は呼吸器疾患による入院の危険因子であることが示されたと Thorax(2020年4月21日オンライン版) に報告した。一方、主観的な孤独感については関連が認められなかった。

以前からさまざまな問題との関連が指摘

 呼吸器疾患による入院は冬季の病床不足と救急受診増加の主要因であり、医療と経済の大きな負担となっている。また、高齢者など社会的弱者への影響も大きい。社会的孤立と孤独感は、これまでに不健康や死亡リスクの増大、服薬アドヒアランスや受診率の低下、さまざまな疾患による入院、全身炎症の増大などと関連することが知られている。Bu氏らは、社会的孤立と孤独感が高齢者の呼吸器疾患入院にも関連しているか否かを検討するため、英国保健サービス(NHS)の入院治療情報を基に隔年実施されている加齢パネル研究English Longitudinal Study of Ageing(ELSA)のデータを解析した。

 社会的孤立は、<1>独居(domestic isolation)<2>社交(social contact:子供や親戚、友人などとの接触)<3>社会参加(social engagement:地域団体やボランティア活動、文化活動への参加)―の頻度に分類して評価した。孤独感の評価にはUCLA孤独感尺度を用いた。主要イベントを初回呼吸器疾患入院、競合リスクを死亡として原因別Coxハザードモデルを作成した。

独居で32%、社会不参加で24%リスク上昇

 ELSAの第4回調査(2008/09年)参加者8,780人のうち4,478人でスパイロメーターの記録を含む完全なデータと、2018年1月までの入院治療情報が入手できた。最長追跡期間は9.6年で、11%が呼吸器疾患により入院した。

 社会人口統計学、健康面、行動面において想定される交絡因子を調整後の解析では、独居が呼吸器疾患入院の最も強い危険因子であり、呼吸器疾患入院リスクは同居者がいる人に対し、独居者では32%高かった〔ハザード比(HR)1.32、95%CI 1.06~1.64、 図-左 〕。

図.独居と社会不参加の呼吸器疾患入院リスク

高齢者の社会的孤立は入院の危険因子 呼吸器疾患による入院との関連を検討

(Thorax 2020年4月21日オンライン版)

 同様に社会不参加も呼吸器疾患入院の重要な危険因子で、社会不参加の標準偏差(SD)1上昇は呼吸器疾患入院リスクの24%上昇と関連していた(HR 1.24、95%CI 1.11~1.38、 図-右 )。一方、社交の頻度と孤独感はいずれも関連がなかった。さまざまなデータを補完した感受性解析においても同様の結果が得られた。

独居者が参加可能な地域活動を紹介する取り組みを

 以前の予備研究で、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において社会的孤立が冬季の呼吸器疾患入院を増加させ、合唱やダンスなどの社交活動が医療利用と入院を減少させる可能性があることが示唆されていたが、この分野の研究は少なく縦断的データに基づくエビデンスは存在しなかった。

 Bu氏らは「今回の結果は、社会的孤立は入院リスク増大と関連するが、主観的な孤独感は関連しないというこれまでの研究結果を支持するもの」と指摘。背景原因として、社会的孤立による運動量の低下、喫煙、早期受診を促す社会的圧力の低下、孤立に関連した炎症、臨床医が独居による不健康や転倒リスクを憂慮して入院を許可する可能性を挙げている。

 一方、社交による保護効果が認められなかったことについては、同居者がいる場合や社会活動への参加と比べて、親族や友人との社交では呼吸器感染リスクが増大するためではないかと推察している。

 同氏らは「肺疾患を有する独居高齢者に的を絞った新たな地域支援や、独居者への地域入院リスクの低減に有用かもしれない」と述べている。実際、英国では、家庭医がリンクワーカーと呼ばれる人材を介して患者や独居者に地域活動やサービス参加を紹介する社会的処方(social prescribing)と呼ばれる取り組みが注目されつつある。(小路浩史)

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