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僕、認知症です~丹野智文46歳のノート

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認知症カフェもオンラインで…「できないこと」を乗り越えたら、新しい出会いがあった

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リアル講演会は全て中止に

 新型コロナ対策のテレワークで、オンラインの会議システムを使う人が急増していると聞きました。私も前からZoomというアプリを活用しています。映像と音声で、離れた場所にいるたくさんの人と同時につながることができるので、世界各国の認知症当事者との交流にはもってこいなのです。

 私は認知症になってから、人の顔を思い浮かべることができなくなりました。電話だと相手の顔が見えないので、誰としゃべっているのか分からなくなってしまうのですが、Zoomなら、そういう心配もありません。

 今年も講演の予定がいっぱい入っていたのに、2月以降は全て中止になってしまいました。すると今度は、このZoomでの講演の依頼が、ぽつぽつとくるようになったのです。

思いつきをすぐ実行

 これが何とも気軽な感じで、日時だけ決めたらほとんど打ち合わせもなく、テーマもこちらに一任……ということもしばしば。私の方も、これまでの講演では触れる機会がなかったことを話してみたり、しまい込んでいた昔の資料を引っぱり出してきて披露したりと、普段とはちょっと違うことをやっています。開催にお金も手間もかからないので、失敗を恐れずに思いつきをすぐ実行できるのです。自治体や団体が主催者となって大きなホールで開く講演会だったら、こうはいきません。

「認知症カフェ」もオンラインで…新型コロナで世界が広がった!

先日の講演では、4年前にスコットランドの認知症当事者を訪問した時の話をしました。Zoomを使うと、全員のPC画面に発表用資料と参加者の顔を映し出すことができます

普段と違う参加者

 この間は、Zoomで認知症カフェをやるので話をしてほしい、と頼まれました。ご存じない方のために説明すると、認知症カフェというのは、当事者や家族、地域の住民、医療・介護関係者らがお茶を飲みながら認知症について語り合う活動です。今や全国で7000を超えるといわれているのですが、新型コロナのせいで実際に集まることができなくなっているのです。

 通常は、ご近所同士でこぢんまりとやることが多いのですが、この時はいろいろな所から参加があり、デイサービスなどともつながっていました。まだ若い私が認知症の当事者として語るので、デイサービスに来ている高齢者も驚いたようで、たくさん質問が出ました。

 親子限定の「オンライン授業」というのもありました。小学生くらいの子どもたちが、お父さんやお母さんと一緒に自宅のPCで参加するのです。私も、自分の経験を学校での場面に例えたりして、子どもがイメージしやすいように工夫しました。

反応が分からずやりづらさも

 普段の講演会では、介護が必要なお年寄りや子どもが来場してくれることは、あまりありません。どこからでも参加できるネットのメリットを実感しました。その反面、聞いている人の反応をつかみにくいので、やりにくさも感じています。PCの画面に参加者の顔が映っているのですが、小さくて表情があまりよく分からないし、私が話す間は、ほとんどの人が自分のPCのマイクをオフにしているので、笑ったり驚いたりした時に漏れる声がこちらには聞こえないのです。

できないことを工夫して…認知症の人と同じ

 いいところも物足りないところもあるオンライン講演会。これからもっと広がっていけば、新しいやり方が出てきたり、システム自体が改良されたりして、さらに使いやすくなっていくんじゃないでしょうか。

 今までできていたことができなくなったら、どうすればできるのかを考える。やってみて、うまくいかない部分があったら、そこを改善する方法をさらに考える。これはまさに、認知症の私たちが普段の生活の中でやっていることです。

 新型コロナのせいで、今は誰もが不自由な生活を送っていると思いますが、きっと新しい発見もあるはずです。あともう少し、頑張って乗り切っていきましょう!(丹野智文 おれんじドア実行委員会代表)

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丹野智文(たんの・ともふみ)

 おれんじドア実行委員会代表

 1974年、宮城県生まれ。東北学院大学(仙台市)を卒業後、県内のトヨタ系列の自動車販売会社に就職。トップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断を受ける。同年、「認知症の人と家族の会宮城県支部」の「若年認知症のつどい『翼』」に参加。14年には、全国の認知症の仲間とともに、国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」(現・一般社団法人「日本認知症本人ワーキンググループ」)を設立した。15年から、認知症の人が、不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」を仙台市内で毎月、開いている。著書に、「丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-」(文芸春秋)。

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