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田村専門委員の「まるごと医療」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ 外国人患者の検査は「やさしい日本語」で 医療者向け動画を公開

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通訳者が同席できないことが多く

 順天堂大学教授(医学教育)の武田裕子さんと、武田さんが代表を務める「医療×『やさしい日本語』研究会」は共同で、外国人が新型コロナウイルスの検査を受ける場合に、医療者がやさしい日本語を使って検査の手順などを説明するための動画を作成し、公開した。感染の恐れなどから通訳者が診察に立ち会えないことが多いなかで、やさしい日本語による説明であれば、外国人にも理解しやすいためだ。武田さんは「多くの医療者に活用してほしい」と話す。

動画公開サイト

https://www.juntendo.ac.jp/co-core/consultation/yasashii-nihongo2020.html

医療×「やさしい日本語」研究会

https://easy-japanese.info/

 新型コロナウイルスの感染拡大で、日本に住む外国人も検査を受けるケースが増え、たとえば東京都は4月、外国人のための新型コロナ生活相談センターを設けて相談を受け付けている。ところが、実際に検査を受けるとなると、医療者側から通訳の同行を求められてもかなわかったり、通訳者の不足から十分なサポートを受けられなかったりする事態が生じているという。

 そこで、武田さんらは、通訳者がいないケースでも、「やさしい日本語」を使うことで、検査をわかりやすく説明するための動画や解説のパンフレット、問診票の言い換えを作成した。

「体温を測定して頂けますか?」→「熱を測ります、調べます」

新型コロナ 外国人患者の検査は「やさしい日本語」で 医療者向け動画を公開

 たとえば、<体温測定の場面>。

 ・通常使われる表現→「体温を測定していただけますか? 腋(わき)の下に挟んでしばらくお待ちください」

 ・「やさしい日本語」→「熱を測ります、調べます。ここに挟んでください」(※検査をする人が、自分の腋の下に指を挟んで見せる)

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 <検体採取の場面>では、

 ・通常使われる表現→「お鼻の中に綿棒を差し入れます」

 ・「やさしい日本語」→「鼻にこれを入れます」(※綿棒を相手に見えるように示す)

 といった具合だ。

  「やさしい日本語」への言い換えには、いくつかのコツがある。「一文を短くし、語尾を明瞭にして区切る」、「単語の頭に『お』をつけない(お薬→薬)」、「ジェスチャーや実物を提示する(腋の下に挟んで見せる、綿棒を見せる)」などだ。

 新型コロナ検査での教材の作成にあたっては、順天堂大の医師の協力を得て、検査の説明をする様子を録画し、文字に起こしたうえで、「やさしい日本語」に言い換えた。体温などの測定から結果の説明まで、実際の検査の流れに沿った内容になっている。

「外国人への説明=英語」という誤解

 「やさしい日本語」は、難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語のことで、阪神・淡路大震災をきっかけに広く普及した。日本語を母語としない人、高齢者、障害のある人などに用いられているという。

 しかし、武田さんによると、行政の窓口や観光面などで活用されているのに比べ、医療関係者には「やさしい日本語」の認知度は低い。その理由として武田さんは、「外国人=英語という思い込みが、医療者の側にあるのではないか」と説明する。

 実際には、日本に在留する外国人の日本語の会話力についての国の調査でも、程度の差はあれ日本語を使えると回答した外国人は8割を超える。「日本で生活している外国人であれば、英語よりも、むしろ日本語の方が理解できる。特に、社会的、経済的な理由で医療にたどりつけない困難を抱えている人では、英語よりも『やさしい日本語』の方が有用なケースが多い」と武田さんは話す。

地域の外国人が参加する普及活動を計画

  国際保健や健康格差などを専門としている武田さんは、外国につながりのある子供への支援活動について学生の実習先を探すなかで、「やさしい日本語」に出会い、その効果を実感。外国人支援のNPOコーディネーターや日本語教育、コミュニュケーションの専門家とともに2019年に「医療×『やさしい日本語』研究会」をつくった。

 同研究会では今年度から、外国人が多く住む地域を対象に、医療における「やさしい日本語」を普及させるワークショップを計画している。実際にその地域に住んでいる外国人に参加してもらうことで、一過性の催しに終わらせず、地域に根付かせることを目指す。新型コロナの影響でイベントが開けるかどうかは今のところ不確定だが、動画をはじめとした教材づくりなども検討中という。

 武田さんは「外国人医療において、医療通訳者の果たす役割は極めて重要だが、人数も足りないのが現状だ。初歩的な医療の場面で『やさしい日本語』を普及させることができれば、医療通訳者にはより専門的で細かなニュアンスの説明が必要な場面に注力していただくことが可能になる」と話している。(田村良彦 読売新聞専門委員)

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田村 良彦(たむら・よしひこ)

 読売新聞東京本社メディア局専門委員。1986年早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。西部本社社会部次長兼編集委員、東京本社編集委員(医療部)などを経て2019年6月から現職。

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