山中龍宏「子どもを守る」
医療・健康・介護のコラム
小型で強力な磁石を飲み込んだ1歳児 小腸が壊死して穴が…開腹手術で37個摘出
これまで、タバコ、医薬品、コイン形ボタン電池を誤飲した場合の危険性についてお話ししてきましたが、他にも乳幼児が誤飲すると危険性が高い製品があります。

イラスト:高橋まや
1個の大きさは直径3~30ミリ程度
最近、磁力が強いネオジム磁石の製品が販売されるようになりました。ネオジム磁石とは、レアアースであるネオジムと、鉄、ホウ素を主成分としたもので、従来の酸化鉄を主成分とするフェライト磁石と比べ、10倍以上の磁力を持つとされています。ネオジム磁石は、1個の大きさが直径3~30ミリ程度で、3ミリや5ミリの小さいものは、200個程度を1セットとして販売されています。強い磁力を利用し、複数個をつないで立体的にいろいろな形を作って遊べる商品です。二つのネオジム磁石で耳たぶを挟んでも、しっかりくっついて離れません。
1歳9か月女児のケース。ほかの幼児が遊んでいたのを見て、欲しがったため、4か月前にネオジム磁石を買い与えた。その後、磁石を口の中に含んでいるのを見た保護者が、手の届かないところに保管した。 嘔吐 を繰り返したため、かかりつけ医を受診すると、胃腸炎の疑いがあるとして薬を処方された。しかし、その翌日も嘔吐が続き、他院を受診したところ、レントゲン検査で腸内に異物が見つかった。開腹手術を行ったところ、小腸内の3か所にあった磁石が、磁力によって引き合い、小腸を結着して圧迫 壊死 を起こし、 穿通 していた。直径3ミリの磁石計37個を摘出した。*事例は 国民生活センター 、 日本小児科学会 参照
1歳9か月であれば、まだ、何でも口に入れてしまいます。ネオジム磁石は小さくて、すぐに飲み込めます。また、磁石の数が多いため、いくつ磁石がなくなったのかを確認するのも困難です。このお子さんは、何回かに分けて磁石を飲み込み、小腸の先に進んだ磁石と、後から飲み込まれた磁石が、強い磁力のためにおなかの中でくっついてしまったのです。小腸がねじれ、通過障害を起こすと嘔吐がみられるようになります。保護者は、3ミリの小さい磁石を飲んでも問題ないだろうと考え、気にしていなかったのでしょう。また、吐き続けていることを主訴にクリニックを受診すると、胃腸炎と診断されることも多いのです。
欧米では14歳未満に販売規制
これまでにも、肩こり治療用の 皮膚貼付式磁石 や文房具を複数個誤飲して消化管穿孔を起こした例が報告されています。小さい磁石を1つ飲み込んだだけであれば自然に排せつされ、何の心配もありません。しかし、複数個の磁石、または磁石と金属体を誤飲した場合には、腸管の壁を挟んだ状態で磁石同士がくっつき、腸 閉塞 や腸捻転を起こし、徐々に圧迫され、腸管の壊死や 瘻孔 形成、消化管穿孔、腹膜炎を引き起こし、時には死亡することもあります。
ネオジム磁石は、最近では、イヤリング、バッジ、ブローチなどを固定する方法としても普及しており、100円ショップなどで簡単に購入することができる身近な磁石になっています。乳幼児がいる家庭には、持ち込まないでください。欧米では、14歳未満へのネオジム磁石の販売が規制されています。
1 / 3
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。